2021/12/20

白内障の治療

大橋眼科 藤谷 顕雄 副院長




大橋眼科
藤谷 顕雄 副院長
●2005年北海道大学医学部卒業。時計台記念病院、手稲渓仁会病院、北海道大学病院などを経て、2019年4月より現職。日本眼科学会認定眼科専門医。
大橋眼科 北海道札幌市白石区本通6丁目北1-1
https://www.ohashi-eye.jp/




加齢で発症、水晶体が濁り視力低下

 白内障は、眼の中でカメラのレンズのような役割をしている「水晶体」が濁ってしまう病気です。主な自覚症状としては、視力が低下する、かすんで見える、まぶしくて見えづらい、近視が進行するなどがあります。白内障の原因の多くは加齢で、早い人では40歳代から始まります。年齢が上がるにつれて増加し、80歳以上ではほぼ100%が発症するとされます。他にも外傷や糖尿病、ステロイドの使用が原因になることもあります。

 治療には点眼薬もありますが、少し進行を遅らせる程度の効果しかありません。そのため、最終的には手術が必要になります。一般的な手術法は、水晶体を包んでいる袋を残し、袋の中の水晶体を超音波で細くして取り除き、代わりに人工の「眼内レンズ」を挿入するものです。手術の技術向上や医療機器の進歩によって短時間で正確にできるようになり、患者さんの体への負担は少なくなっています。日帰り手術を行っている施設も多くあります。白内障手術は全国で年間140万件以上行われており、最も実施件数の多い手術です。

 

“単焦点”と“多焦点”種類ごとに一長一短

 

 挿入する眼内レンズは、大きく分けて単焦点眼内レンズと多焦点眼内レンズがあり、それぞれ一長一短があります。

 単焦点眼内レンズは〈遠く〉〈中間〉〈近く〉など、どこか一つの距離にピントが合い、そこから外れるとぼやけて見えます。ピントを合わせたい距離をあらかじめ決めて手術を行い、それ以外の距離ではメガネでピントを調節します。一方、多焦点眼内レンズは遠くと近くの2つで焦点が合います。近年は遠く、中間、近くの3カ所に焦点が合うレンズも登場しています。自由にピントを変えられるような見え方とは異なりますが、遠くにも近くにも(3焦点眼内レンズであれば中間距離も)メガネなしで焦点が合いやすくなります。手元を見るときは老眼鏡が必要な場合もありますが、頻繁に掛け外しをする煩わしさからは解放されます。ただし、多焦点眼内レンズに共通することですが、構造上、レンズに入ってくる光を複数の焦点に振り分けるため、色の鮮やかさやくっきり感など解像度は落ちます。また、夜間に街灯や車のライトがぼやけたり、まぶしく感じるハロー、グレアと呼ばれる現象が起こりやすくなります。

 見え方だけでなく、費用面でも違いがあります。単焦点眼内レンズは公的医療保険の対象ですが、多焦点眼内レンズにかかる費用は公的医療保険の対象外で自己負担となります。

 

眼科医とよく相談し、最も合うレンズを選んで

 

 細かい作業をする方や夜間に車の運転をする方などは単焦点眼内レンズの方が向いているといえます。また、メガネをなるべく掛けたくない人やスポーツなどアウトドアでの活動を好まれる方は多焦点眼内レンズの方が向いているでしょう。

 ただし、他の病気で視機能が低下している方は多焦点眼内レンズの方が見えづらく感じますし、比較的まれではありますが他の病気がなくても多焦点眼内レンズの見え方に慣れることができない方もいます。

 患者さんはそれぞれの眼内レンズの特徴をよく理解した上で、かかりつけ眼科医とじっくり相談しながら比較、検討し、ご自身のライフスタイルに最も合う眼内レンズを選ぶことが大切です。

 加齢に伴って起こりやすい目の病気は、白内障のほかにも緑内障や加齢黄斑変性などたくさんあります。40歳を過ぎたら特別な症状がなくても、定期的に眼科で検診を受けるよう心掛けてください。

2021/11/20

安心して治療・ケアに取り組めるように(2021.11.20記)

花川病院 菅沼 宏之 院長



医療法人 喬成会
花川病院

菅沼 宏之 院長
●北海道大学卒。日本リハビリテーション医学会指導医、認定臨床医、リハビリテーション科専門医、日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士。
花川病院 石狩市花川南7条5丁目2番地
http://kyouseikai.jp/hanakawahp/




ウィズコロナ時代のリハビリ診療(2021.11.20記)

 道内の新型コロナウイルスの感染状況が落ち着き、ワクチンの接種も進み、減少の兆しがみえ始めています。ただ、もちろんまだ油断はできません。多くの病院では、コロナ禍、そしてウィズコロナ時代に対応するため、院内感染の防止対策を徹底しながら診療を行なっています。リハビリの現場では患者さんとセラピストの接触が多く、また介助が必要な患者さんではさらに密接に接触する機会が増えます。このため、リハビリにおいては特に感染対策を強化して治療・ケアにあたっています。患者さんとリハビリ専門職(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士)相互の体温測定・マスク着用・手指消毒の徹底、セラピストのゴーグルやフェイスシールドの使用、リハビリ室の人数制限と換気など、可能な限りの感染防護体制を整え、患者さんたちが安心してリハビリに取り組んでもらえるよう不断の努力を続けています。

 

重要性が増す回復期リハビリ

 

 回復期リハビリの対象となるのは、主に脳卒中や頭部外傷、交通事故による複雑骨折、外科手術などの治療の安静により生じた廃用症候群を有する患者さんなどです。脳卒中は5〜6カ月間、骨折は2〜3カ月間など、疾患に応じて入院できる上限が決まっており、最大1日9単位(1単位20分、最大3時間)まで保険診療が認められています。

 以前は「手術後は安静第一」と考えられていましたが、世界的に研究が進む中で「手術直後でも起き上がって動いた方が回復は早い」ということが明らかになっています。在宅復帰に効果を上げるためには、回復期リハビリを少しでも早く集中的に行うことが非常に重要です。

 患者さんの病状や要望、生活背景などに応じて個別に目標が設定され、一人ひとりに合わせたリハビリ計画を立てます。医師を中心に他職種が密接に連携するチームアプローチが不可欠です。医師、看護師、リハビリ専門職、管理栄養士、薬剤師、医療ソーシャルワーカーらが連携して一つのチームとなり、入院中のリハビリだけでなく、退院した後も快適な暮らしができるようサポートすることが大切です。

 

日々進歩を続けるリハビリ医療の未来

 

 近年、リハビリ分野は飛躍的な進歩を遂げ、新しい治療法が数多く開発されています。例えば、脳卒中などの後遺症による手の麻痺(まひ)に対する治療。以前は、麻痺のない手の訓練を集中的に行い、早期に日常生活動作の向上を図ることが主流でしたが、現在ではまひのある手を積極的に動かすことが脳を刺激し、後遺症の改善につながることが分かっています。リハビリによりその患者さんに残された機能を強化するだけでなく、障害のある部位・領域にはよりますが失われた機能の回復・改善も期待できるようになってきました。

 支援ロボットを用いるリハビリも新しい治療法の一つです。すべての患者さんに有効というわけではありませんが、従来のリハビリと比べ、より安全性・効率性の高い治療・ケアが可能となり、回復速度の向上や機能改善につながっています。

 医療現場は日進月歩です。今はまだ「不治の後遺症」も近い将来に「治りうる症状」となる日がやってくるはずです。私たちリハビリ医療関係者も日々学び、進化し続けることを望んでいます。

2021/10/20

肛門のはたらき

札幌いしやま病院札幌いしやまクリニック 石山 元太郎 理事長


医療法人 藻友会
札幌いしやま病院札幌いしやまクリニック
石山 元太郎 理事長
●日本外科学会認定外科専門医。日本大腸肛門病学会認定大腸肛門病専門医。
●札幌いしやま病院 札幌市中央区南15条西10丁目4-1
●札幌いしやまクリニック 札幌市中央区南15条西11丁目2-1
http://ishiyama.or.jp/




精密で複雑な肛門の機能、排便支える二重の括約筋

 普段の生活では「肛門」のありがたみを実感する機会はほとんどないと思いますが、肛門は精密機械顔負けの高度で複雑な機能を備えた大事な臓器です。

 口から入った食物は、消化管を通り、最後には肛門から便として排出されます。もう少し詳しく説明すると、胃で消化された食物の栄養素と水分は小腸・大腸で吸収され、残ったものが便となり、S字結腸に溜められます。溜まった便は、食事の刺激で起こる腸の蠕動運動によって、肛門手前の直腸に押し出され、それが神経・脳へと伝達され、便意を感じて排便します。ここに、肛門の素晴らしい機能があります。それは「直腸に溜まった便を無意識にせき止めておき、好きな時に排出できること」です。もし、直腸に少しでも便が押し出されるたび、肛門に力を入れ続け、便が漏れるのを防がなければならないとしたら、トイレに間に合わなかったり寝ている間に便が漏れたり、安心して生活できなくなるでしょう。

 便を保持・排出するため、肛門を締めたりゆるめたりする筋肉が「括約筋」です。括約筋は二重構造になっていて、一つは自分の意思とは関係なく動く内肛門括約筋で、もう一つは自分の意思で動かせる外肛門括約筋です。直腸に十分な量の便が押し出されると、内肛門括約筋が自然にゆるんで排便の準備をします。この時、意識的に外肛門括約筋をゆるめることで、私たちは排便できています。反対に、意識的に締めることで、排便してはいけない状況で便を漏らさないよう我慢できるのです。

 

便漏れ防ぐ肛門クッション、便とガス見分けるセンサーも

 

 普段の生活で便やガス(おなら)が漏れ出てしまわないのは、肛門の出口から数センチのところにある「肛門クッション」のおかげもあります。網目状に広がった血管があり、軟らかく弾力性のある肛門クッションは、肛門から液体や気体が漏れ出ないよう水道の蛇口のゴム栓のような役割を果たしています。

 また、肛門にはサンプリング機能と呼ばれる働きがあり、直腸から降りてきたものが、「個体」か「液体」か「気体」か、を瞬時に判別することができます。そして、ガスの時のみ排出したり、便とガスとが同時に降りてきた時は、便を残したままガスだけを出したり、まさに精密機械のような繊細で高度な選別がおこなわれています。便とガスを識別できないと、おならがしたくなった時も必ずトイレに行って便座に座らなくてはならないなど、生活はとても不便になるでしょう。

 

生活の質を保つために、肛門を意識した生活を

 

 排便は毎日の生活で当たり前に行われる行為ですが、そこに不便を感じると生活の質は著しく低下します。正しい排便習慣を身に付け、肛門をいたわる生活を心掛けるとともに、排便時に違和感や異変があれば、迷わず大腸肛門病医を受診してほしいと思います。

2021/09/20

胃がん検診と胃がんのリスク判定(2021.9.20記)

佐野内科医院 佐野 公昭 院長




佐野内科医院

佐野 公昭 院長
●1984年岩手医科大学卒業。北大大学院修了。日本内科学会認定総合内科専門医。日本消化器病学会認定消化器病専門医。日本消化器内視鏡学会認定消化器内視鏡専門医。医学博士
佐野内科医院 札幌市中央区南5条西15丁目1-6

http://www.sano-naika-clinic.com/





コロナでがん検診が低迷病状進行リスクが膨らむ(2021.9.20記)

 9月は、がん検診受診率向上などがんの早期発見・治療の重要性を広く伝えるための啓発活動が行われる「がん制圧月間」です。がん検診の目的は、がんを早期発見・治療することにより死亡率を低下させることです。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、例年に比べ、がん検診を受診する方が大きく減っています。発見・診断が遅れれば、病気が進行してしまう恐れがあります。

 コロナの流行によって、がんが減るわけではありません。早期発見のチャンスを逃さないように、しっかりとがん検診を受けてほしいです。また、検診で「精密検査が必要」とされた方はそのまま放置せずにできるだけ早く受診してください。今回は、胃がん検診と胃がんのリスク判定について紹介します。

 

胃がん検診の検査方法内視鏡検査のメリット

 

 国のがん検診の指針が2016年に改定され、各市町村の胃がん検診が変わりました。札幌市では19年1月から検診内容、対象年齢、受診間隔が変更になりました。バリウム検査に加え、内視鏡検査が選べるようになり、対象年齢は40歳以上から50歳以上に、検査の間隔は「毎年」から「2年に1回」となりました。

 バリウム検査は費用が安く、検査時間が短いなど優れた検査法ですが、平坦な病変や食道の病変を見つけにくいという弱点があります。また、検査終了後にバリウムの排泄が辛いという方も少なくありません。異常が疑われる場合には、あらためて内視鏡検査が必要になることも弱点と言えるかもしれません。一方、内視鏡検査はバリウム検査に比べて喉の麻酔をするなど準備に時間がかかったりはしますが、食道の観察も行えますし胃の中の様子も形だけではなく色調の変化、粘液の付着なども含めて細かく観察できるのが利点です。また、内視鏡検査では、がんが疑われる病変があれば、その組織を一部採取して(生検)、がんかどうかの確定診断をつけることができます。治療までの時間を短くすることができ、がん検診の目的である「がんによる死亡率の低下」という点では内視鏡検査の方が有用であると考えられます。

 

将来における胃がんのできやすさを判定する検査

 

 胃がん検診の変更に伴い、胃がんになりやすいかどうか胃の健康度を判定する検査(胃がんのリスク判定)も新たに導入されました。ピロリ菌は胃がんの原因の80%であるとされており、ピロリ菌感染に起因する胃炎がある場合は、胃がんになりやすいと言われております。血液検査でピロリ菌感染の有無と、胃粘膜の萎縮の程度を示す物質の測定を組み合わせ、将来の胃がんのリスクを判定するものです。判定はA(ピロリ菌の感染がなく、胃粘膜の萎縮もない)・B(感染はあるが、萎縮はない)・C(感染があり、萎縮もある)・D(感染はないが、萎縮はある)の4群に分けます。リスクのあるB〜D群の方は、内視鏡などによる精密検査を受けることが望まれます。

 札幌市では19年1月から、満40歳の方を対象に一度だけこの検査を受けることができます(胃炎治療中など一部対象外あり)。対象となる方は、ぜひ制度を利用して受診し、胃がんのリスク低減や早期発見につなげていただきたいと思います。

2021/08/20

パニック症・広場恐怖について

岡本病院 山中 啓義 副院長



医療法人社団正心会
岡本病院
山中 啓義 副院長
●日本精神神経学会認定精神科専門医、日本医師会認定産業医、精神保健指定医
医療法人社団正心会 岡本病院 札幌市中央区北7条西26丁目3番1号






突然の恐怖に駆られるパニック症の発作

 「テスト前にパニックになる」「怖い映画を観てパニックになる」─このように何かしらの誘因があって症状が出るものはパニック症ではないというのがポイントです。つまり、パニック症は〝何の前触れもなく突然に〟交感神経症状や過換気症候群を起こす病気のことです。国内有病率は1.8%と推定され、成人女性に好発します。

 症状は「発作時」と「非発作時」の2つに分けられます。発作時の症状は、突然の交感神経症状(動悸、心拍数増加、発汗、震え、息苦しさ、窒息感、めまい)や過換気症候群です。過換気になると体内の二酸化炭素が必要以上に呼吸として排出されてしまい、血液がアルカリ性になります(呼吸性アルカローシス)。これにより、血中のカルシウム濃度が低下し、手足のしびれやひきつけなどのテタニー症状があらわれます。発作はいきなりの出来事なので「このまま死んでしまうのではないか」という恐怖を抱き、それは10分以内にピークに達するといわれています。



非発作時の症状,予期不安と広場恐怖

 

 非発作時の症状ですが、発作を何度も経験すると「また、あの発作が起こるのではないか」「外出先で発作が起きたらどうしよう」という不安が常につきまとうようになります。これを「予期不安」と呼びます。さらに繰り返し発作を起こすと、以前発作を起こした場所や発作が起きたときにすぐに助けを得られないような場所(電車、地下鉄、飛行機、エレベーター、MRI、歯医者、美容室など)を避けたり恐れたりするようになります。これを「広場恐怖」と呼びます。広場恐怖とは「広い場所が怖い」のではなく、むしろ「狭い場所」のイメージです。

 


心理・薬物療法が柱専門医で適切な治療を

 

 原因についてはさまざまな研究報告がありますが、脳のある部分(大脳・大脳辺縁系・青斑核・視床下部)に通常とは異なる変化が起こっているのではないかと指摘されています。また、神経化学伝達物質であるセロトニンの分泌異常が関与しているとも考えられています。

 診断は詳細な問診に加えて、パニック症重症度尺度(PDSS)を用います。PDSSは症状の重症度を評価する尺度で、中核症状7項目を0から4の5段階で評価します。治療は心理療法である認知行動療法、薬物療法、セルフヘルプ(自身で認知行動療法の本を読むなど)のどれかを好みにより選択することが推奨されています。薬物療法では、抗うつ薬「SSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)」のパロキセチン塩酸塩水和物とセルトラリン塩酸塩は保険適用されており、第一選択薬として推奨されます。

 この病気を放置すると「うつ病」を合併するケースが多いことが報告されています。また、パニック症は循環器領域や呼吸器領域の病気(狭心症、不整脈、気管支ぜんそくなど)の症状と類似しており、内科や救急科においても鑑別診断の念頭に置くべき疾患の一つです。パニック症はとても辛いものですが、この病気で命を落とすことはありません。必要以上に恐れず、思い当たる症状があれば精神科・心療内科を受診してください。

2021/07/20

ぜんそく、COPDと新型コロナウイルス感染症(2021.7.20記)

大道内科・呼吸器科クリニック 北田 順也 副院長 


医療法人社団 大空会
大道内科・呼吸器科クリニック
北田 順也 副院長
●日本呼吸器学会呼吸器専門医、日本呼吸器内視鏡学会気管支鏡専門医
大道内科・呼吸器科クリニック
 札幌市中央区北3条西4丁目 日本生命札幌ビル3階
https://www.ohmichi.or.jp/






ぜんそく、COPDと新型コロナウイルス感染症

 新型コロナウイルス感染症(以下新型コロナ)がいまだ大きな脅威となっていますが、流行が始まって1年以上が経ち、これまでに多くのことが分かってきています。基礎疾患があると重症化しやすいとされていますが、ぜんそくの患者さんは一般の人と比較して「新型コロナに感染しにくい」、「重症化リスク、死亡リスクは変わらない」という結果が出ています。

 一方で、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の患者さんは「重症となるリスクが高い」ことが分かっています。新型コロナと、ぜんそくやCOPDとの関係を理解し、新型コロナの予防のほか、疾患に対する定期的な治療による症状の良好なコントロールがなによりも大切です。

 

ぜんそくの患者さんは新型コロナにかかりにくい?

 

 ぜんそくの患者さんは新型コロナにかかりにくいというのは本当でしょうか?ぜんそく患者を含む研究を複数まとめて解析するメタ解析という手法を用いたある研究では、ぜんそく患者さんは一般人口と比較して「新型コロナに感染しにくい」「新型コロナによる入院が少ない」という結果が示されています。一方でCOPDの患者さんでは感染しやすく、さらに重症化する人の割合が高いことが示されました。日本呼吸器学会の調査では、新型コロナ感染によるCOPD患者さんの死亡率は13.0%と全体の死亡率5.6%(2021.1.20記)より明らかに高い数字を示しています。

 この原因についてはすべてが明らかになっているわけではありませんが、ぜんそくを引き起こすアレルギーにかかわる物質やぜんそくの治療に用いる吸入ステロイド薬が、新型コロナウイルスが体内に侵入する入口(ACE2受容体)を減少させる作用があるために感染しにくくなっているという可能性が指摘されています。逆にACE2受容体は年齢に伴い増加し、男性や喫煙者に多く存在するため、高齢者やCOPDの患者さんは新型コロナにかかりやすく、重症化しやすいのかもしれません。

 

この結果を見てぜんそく患者さんは安心しても良いのでしょうか?

 

 一部の研究ではぜんそくのコントロールが良くない重症の患者さんが新型コロナに感染してしまった場合には、呼吸状態が悪化しやすく人工呼吸器を使用するリスクが高くなる、そしてそれを使用する期間が長くなる可能性が指摘されています。ぜんそく患者さんが新型コロナに感染しないというわけではありませんので、引き続き感染対策を徹底するようにしましょう。そしてきちんと定期通院治療をして良好な状態を維持することがなによりも大切です。

 

新型コロナワクチン、打っても大丈夫?

 

 医療従事者につづいて65歳以上の高齢者からワクチンの接種が開始されていましたが、徐々に64歳以下の基礎疾患を有する方への「優先接種」に移行していっています。厚労省が示す14項目のいずれかに当てはまる基礎疾患を持ち、入院か通院をしている人、もしくはBMI30以上という基準を満たした肥満の人が優先接種の対象です。この項目には「慢性の呼吸器の病気」が入っています。特定の病名が出ていないので幅広い解釈ができますが、ぜんそく、COPDは含まれると考えるのが一般的です。

 患者さんに「新型コロナワクチンを接種すべきかどうか」について聞かれますが、現在用いられているワクチンは性別や年齢に関係なく軒並み90%以上と極めて高い予防効果を持ち、たとえ感染しても重症化しにくく、周囲にも感染を拡げにくくなるという効果が期待できます。

 強いアレルギー反応を示すアナフィラキシーを心配する方もおられますが、「ぜんそくの人は新型コロナワクチン接種によるアレルギー反応が起こりやすい」という事実はなく、過度の心配は必要ありませんので、かかりつけ医とも相談の上、ぜひ接種をご検討ください。

2021/06/18

網膜静脈閉塞症による視力障害

大橋眼科 藤谷 顕雄 副院長


 


大橋眼科

藤谷 顕雄 副院長
●2005年北海道大学医学部卒業。時計台記念病院、手稲渓仁会病院、北海道大学病院などを経て、2019年4月より現職。日本眼科学会認定眼科専門医
大橋眼科 札幌市白石区本通6丁目北1-1
https://www.ohashi-eye.jp/






網膜静脈閉塞症による視力障害

 眼球をカメラに例えると網膜はフィルムにあたり、光や色を感じるのに重要な膜状の組織です。網膜中央近くの視神経乳頭から網膜動脈が網膜全体に広がり、その中の血液が酸素や栄養を運びます。網膜を栄養した血液は網膜静脈に流れ込み、視神経乳頭から眼外へ出ます。

 網膜静脈閉塞症は網膜静脈の血流が詰まることで発症します。血液が血管からあふれ出て網膜出血となり、循環が悪くなるため網膜の浮腫(むくみ)や虚血も起きます。網膜中心部の浮腫(黄斑浮腫)が起こると、ものがゆがんで見え、視力が低下します。また、虚血が強いと眼内に新生血管が発生し、急激な視力低下の原因となる硝子体出血や、血管新生緑内障という失明につながる特殊な緑内障の原因となります。

 多くの場合、高血圧などによる動脈硬化を背景として、網膜静脈の中で血流が滞って血栓ができることが原因とされます。無症状の方を含めると40歳以上の2%程度に見られ、決して珍しい病気ではありません。枝分かれした周辺の静脈が詰まると「網膜静脈分枝閉塞症」、視神経乳頭部で静脈の根元が詰まると「網膜中心静脈閉塞症」といい、詰まった範囲や程度によって病状が異なります。



眼内注射で黄斑浮腫を抑えるのが最優先

 

 視機能に直結する黄斑浮腫を改善することが最優先となります。黄斑浮腫に対して最も効果的なのは、抗血管内皮増殖因子(VEGF)抗体という薬の眼内注射です。循環が悪くなった虚血網膜からVEGFという物質が出て黄斑浮腫の原因となりますが、抗VEGF抗体はその働きを抑えます。治療効果に優れ比較的短期間で浮腫は改善しますが、効果が不十分な場合もあります。また、注射の効果は2~3か月で消失するため再発もめずらしくありません。複数回投与も可能ですが、高価な薬剤であること、注射の際に少なからずリスクがあることも課題です。

 広範囲で血流が詰まった場合、硝子体出血や血管新生緑内障を予防するためにレーザー治療で虚血網膜を焼きます。他にも、ステロイド剤の眼局所への注射や、状況によっては硝子体手術を行うこともあります。

 

定期的な自己チェックと眼科検診を

 

 黄斑浮腫がおさまると視機能の改善が期待できますが、網膜の障害が強いと改善は難しくなります。ゆがみや視力低下などの異常を感じたら放置せず、すぐに眼科を受診してください。普段は両眼でものを見ることが多いため、片眼ずつで見え方を確認すると病気の発症、悪化に早く気付けます。また、合併症は数年経ってから出ることもあり、自覚症状が落ち着いていても定期検査が必要です。

 加齢による目の病気は様々ですが、早期発見・治療が大切です。40歳を過ぎたら特別な症状が無くても定期的な眼科受診をお勧めします。

2021/05/20

コロナ禍でのリハビリ診療(2021.5.20記)

花川病院 菅沼 宏之 院長



医療法人 喬成会

花川病院

菅沼 宏之 院長
●北海道大学卒。日本リハビリテーション医学会指導医、認定臨床医、リハビリテーション科専門医、日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士。
花川病院 石狩市花川南7条5丁目2番地

http://kyouseikai.jp/hanakawahp/





コロナ禍でのリハビリ診療

 新型コロナウイルス感染症が大きな脅威となっていますが、これまでに多くのことも分かってきています。現在では多くの病院で院内感染を防ぐ方法を学習しました。リハビリテーションの現場では患者さんとセラピストの接触が多く、また介助が必要な患者さんではさらに密接に接触する機会が増えます。このため、リハビリにおいては特に感染対策を強化して治療・ケアにあたるケースが多いです。患者さんとリハビリ専門職(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士)相互の体温測定・マスク着用・手指消毒の徹底、近接する場面においてはセラピストのゴーグルやフェイスシールドの使用、リハビリ室の人数制限と換気と共有部分・器具の定期的消毒など、可能な限りの感染防護体制を整え、患者さんたちが安心してリハビリに取り組んでもらえるよう不断の努力を続けています。

 

「回復期」のリハビリ診療

 

 事故に遭ったり病気で倒れたりした直後を「急性期」と呼びます。急性期に手術など必要な処置をし、容体が落ち着いたら、最長6カ月の「回復期」に入ります。ここで治療後に低下した能力を回復するため、さまざまな専門職が共同して集中的なリハビリを実施するのが、回復期リハビリです。以前は「手術後は安静第一」と考えられていましたが、世界的に研究が進む中で「手術直後でも起き上がって動いた方が回復は早い」ということが明らかになっています。在宅復帰に効果を上げるためには、回復期リハビリを少しでも早く集中的に行うことが非常に重要です。

 回復期リハビリの対象となるのは、主に脳卒中や頭部外傷、交通事故による複雑骨折、外科手術などの治療の安静により生じた廃用症候群を有する患者さんなどです。脳卒中は5〜6カ月間、骨折は2〜3カ月間など、疾患に応じて入院できる上限が決まっており、最大1日9単位(1単位20分、最大3時間)まで保険診療が認められています。

 患者さんの病状や要望、生活背景などに応じて個別に目標が設定され、一人ひとりに合わせたリハビリ計画を立てます。医師を中心に他職種が密接に連携するチームアプローチが不可欠です。医師、看護師、リハビリ専門職、管理栄養士、薬剤師、医療ソーシャルワーカーらが連携して一つのチームとなり、入院中のリハビリだけでなく、退院した後も快適な暮らしができるようサポートすることが重要です。

 

リハビリ医療の現在と未来

 

 近年、リハビリ分野は飛躍的な進歩を遂げ、新しい多くの治療法が開発されています。以前は「脳卒中などの後遺症は回復しない」という概念が定説化されていた時代もあり、例えば麻痺(まひ)のある手の回復よりも麻痺のない手の訓練を集中的に行うことにより早期に日常生活動作の向上を図ることが主流でした。しかし、現在ではまひのある手を積極的に動かすことが脳を刺激し、後遺症の改善につながることが分かっています。リハビリによりその患者さんに残された機能を強化するだけでなく、障害のある部位・領域にはよりますが失われた機能の回復・改善も期待できるようになってきました。

 支援ロボットを用いるリハビリも新しい治療法の一つです。すべての患者さんに有効というわけではありませんが、従来のリハビリと比べ、より安全性・効率性の高い治療・ケアが可能となり、回復速度の向上や機能改善につながっています。

 医療現場は日進月歩です。今はまだ「不治の後遺症」も近い将来に「治りうる症状」となる日がやってくるはずです。私たちリハビリ医療関係者も日々学び、進化し続けることを望んでいます。

2021/04/20

便秘や快便にまつわる「思い込み」

札幌いしやま病院 河野 由紀子 医局長 




札幌いしやま病院

河野 由紀子 医局長
●2005年札幌医科大学医学部医学科卒業。日本外科学会認定外科専門医。日本消化器内視鏡学会認定消化器内視鏡専門医。医学博士
札幌いしやま病院 札幌市中央区南15条西10丁目4-1

http://ishiyama.or.jp/




誤解していませんか?便秘や快便にまつわる「思い込み」

 新型コロナウイルスの感染予防で、外出を控えたりリモートワークになったりで、運動不足で便秘がちという悩みを聞きます。また、座りっぱなしの時間が長くなることで、肛門周囲に負担がかかってうっ血(血液の流れが滞ること)が起こり、おしりの不調を訴える声もよく聞きます。日々、患者さんからおしりやおなかのトラブルについて、いろいろなご質問を受けていますが、患者さんが良かれと思ってやっている習慣が裏目に出ていることが少なくありません。

 便秘や下痢のとき、便が出るまで長時間いきみ続けたり、便意がないのにトイレに長居したりする人が多いですが、これは肛門に負担をかける悪習慣です。肛門周囲のうっ血の原因となり、痔の引き金になります。5分座っても、それ以上便が出なければ、一度トイレを出ましょう。再び便意をもよおしたとき、トイレに戻ればいいのです。1回の排便で全部を出し切る必要はありません。トイレに5分以上座ることをやめるだけで、痔の予防や症状の軽快につながります。

 便秘に悩む人の中には「毎日排便しないといけない」と思い込んでいる人もいますが、それは誤解です。

 3日に1回程度の排便でも不快な症状がなく、すっきりとバナナ状の便が出ているのであれば問題はありません。毎日便が出ないというだけで自分が便秘と思い込み、便秘薬を常用し、下痢を起こしている患者さんもよく見受けられますので、十分ご注意ください。

 便秘の解消やおなかの張りを軽減するために、食事回数を減らす人がいますが、これも逆効果です。便通を整えるには、便の量を増やすことが大切。便は食事からつくられるので、食物繊維が豊富な食事をしっかり取るのが正解です。

 

 
市販薬の長期服用は注意が必要

 

 市販の便秘薬を服用している人も多いと思いますが、薬の選び方や使い方を間違えると、場合によっては、便秘を解消するどころか悪影響を及ぼすこともあるので注意が必要です。特に避けたいのは、大腸を刺激する作用を持つ便秘薬の長期服用です。繰り返し使うと耐性が起こって、薬を飲んでも効果が得にくくなってきますし、自力で排泄する力も弱まってきます。

 パッケージに「漢方薬」「生薬由来」「植物性」などと書いてあると体にやさしそうですが、そういった便秘薬の中にもダイオウやアロエなど大腸刺激性の成分を含んだものもあります。市販薬は一時的に使うものと考えた方が良いでしょう。数週間薬が手放せないようなときは、専門の医療機関にかかることをお勧めします。

 

 
意外と知られていない温水洗浄便座の正しい使い方

 

 シャワートイレ(温水洗浄便座)の間違った使い方が、肛門周囲のかゆみ、皮膚炎、真菌などの感染症など、おしりのトラブルを招いているケースも非常に多いです。そのほとんどは「洗い過ぎ」によって、皮膚を守るバリア機能を担っている皮脂や常在菌を洗い流してしまっていることが原因です。また、水圧の刺激を排便を促す目的で使っている人もいますが、習慣化すると便意を感じる力が弱まり、水圧がないと排便ができない、便を出せない、となってしまいます。

 シャワートイレは、①水圧は一番弱くする、②水流を肛門(の中)に直接当てない(入れない)、③洗浄は10秒以内にする、というのが正しい使い方です。肛門のまわりはとてもデリケートな部位。慣れるまでは物足りなさを感じるかもしれませんが、これでも十分に肛門周囲の清潔を保つことができます。正しく、上手に使って、おしりのトラブルを防止してください。

2021/03/19

胃食道逆流症(GERD)ってどんな病気?

佐野内科医院 佐野 公昭 院長 


佐野内科医院

佐野 公昭 院長
●1984年岩手医科大学卒業。北大大学院修了。日本内科学会認定総合内科専門医。日本消化器病学会認定消化器病専門医。日本消化器内視鏡学会認定消化器内視鏡専門医。医学博士
佐野内科医院 札幌市中央区南5条西15丁目1-6

http://www.sano-naika-clinic.com/





GERD(胃食道逆流症)ってどんな病気?

 胸がむかむかする胸やけや、酸っぱいものがこみ上げてくる呑酸(どんさん)。これらの症状は胃酸が胃から食道に逆流して起こる「GERD=ガード」の可能性があります。

 GERDは「胃食道逆流症」の英語の頭文字をとった略語で、胃の内容物が食道に逆流して起こる病気の総称です。胃内容物の食道への逆流が頻繁に起こるようになると、胃液の中の酸や消化酵素のために、胸やけや呑酸が起こります。また、胃酸のために食道粘膜がただれて食道炎が起こる場合もあります。そのほか、胸痛、ぜんそく、咽喉頭部異常感、中耳炎、歯の酸蝕症といった食道以外の臓器の病気や症状と関係しているのではないかと言われています。

 逆流する主な原因は、食道と胃の間を閉じている下部食道括約筋部の衰えです。年齢を重ねるにつれてこの筋肉部が弱まって、食道と胃の間が開き、胃酸が逆流しやすくなります。加齢や腹圧の上昇などによって、胃が食道側に飛び出す「食道裂孔ヘルニア」も原因の一つです。内服薬が関係する場合もあります。

 近年、GERDの患者数は著しく増加し、成人の約1割がかかっていると推定されます。その理由として、高齢社会の進展、食生活の欧米化、肥満者の増加のほか、ピロリ菌の保有率が減ったことが挙げられます。胃がんの原因になるピロリ菌の感染減少は良いことですが、ピロリ菌のいない健康的な胃は胃酸が出やすいので、結果的にGERDの増加につながっています。

 GERDは睡眠障害など生活の質を低下させ、毎日の仕事にも影響を及ぼします。より良い生活を保つためにも、できるだけ早く正しい診断を受け、適切な治療を始めることが大切です。

 

GERDの診断と治療

 

 診断に重要なのは患者さんの自覚症状です。まず問診を行い胸やけの有無やどのような時に症状が出るのかなどを確認します。GERDを疑う場合に用いられる問診票はいくつか種類がありますが、どれも初期診断に有用なことが分かっています。いくつかの問診票は症状の頻度を点数化していて治療の効果判定にも有用です。GERDを診断するためには、内視鏡検査が必要になります。どうしても検査ができない場合には内服薬による治療を先に行ってみることもありますが、短期間の服用にとどめ、症状が再発する場合には必ず検査を受けて下さい。特殊な検査として24時間食道インピーダンス・pHモニタリングと言って食道への胃酸、胃液や食物残渣などの逆流の有無を判別する検査を行う場合もあります。

 原因や重症度など、段階によりさまざまな治療法や治療の手順がありますが、第一の治療は生活習慣の改善です。脂肪の多い食事、甘いものの食べ過ぎは控えた方がいいでしょう。また、食後すぐに横になるのをやめ、就寝の少なくとも2時間前、できれば3時間前からはものを食べないようにします。就寝時は頭を高くしたり、体の左側を下にする姿勢にしたりすると逆流しにくくなります。肥満やたばこも良くありません。

 第二の治療は薬物療法です。胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)は、その強力な作用で症状を改善させる代表格です。近年は、PPIの中でより強く酸分泌を抑えるカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P‐CAB)という薬剤が使われるケースが増えてきました。このほか、食道の粘膜を保護する薬や胃の動きをよくする薬、漢方薬なども使います。自覚症状や食道炎が改善した後にさらに薬物療法を続けるかどうかは、患者さんごとに判断します。再発が多い病気なので、主治医とよく相談したうえで、ご自身に合った薬の飲み方をしてください。

 内科治療で思わしい改善が認められない場合、胃食道逆流を起因とした喘息や嗄声、咳嗽、胸痛、誤嚥など食道以外の症状を有する場合は外科治療が考慮されます。以前は開腹術が行われていましたが、最近は腹腔鏡を用いた手術や内視鏡的な治療など体に負担の少ない治療法が主流になってきています。

2021/02/20

うつ病の行動活性化療法

 

岡本病院 鈴木 志麻子 医師




医療法人社団正心会

岡本病院

鈴木 志麻子 医師
●精神保健指定医・日本精神神経学会精神科専門医・医学博士
医療法人社団正心会 岡本病院 札幌市中央区北7条西26丁目3番1号

http://www.okamoto-hp.com/





[うつ病の行動活性化療法]どのような治療法ですか

 うつ病に効果がある心理療法の一つです。うつ病では、悲観的な気分と「きっとうまくいかない」「やる気が起きないからできない」等の囚(とら)われ(認知のゆがみ)から行動を起こせず、その結果「今日も何もできなかった」「自分はダメだ」と更に気分が落ち込む悪循環に陥りがちです。 

 そこから抜け出すために、この治療法では「気分」や「認知」に働きかけるのではなく、 「行動パターン」を変えることで気分を改善することに取り組みます。日本では、カウンセリングやデイケアなどで実施されている場合が多いようです。

 

治療の流れを教えてください

 

 「活動(行動)記録表」を用いて、一時間区切りで「やったこと」と「その時の気分(点数化)」を毎晩記入していきます。一週間分を振り返り、気分の良くなる行動と悪くなる行動を洗い出します。自分の行動パターンを眺めると、活動と気分の色々な関係に気づくでしょう。意外なことが気分転換になる、やってみたら案外楽しかった、○時までに寝た方が調子がいい・・・等。その上で、気分が良くなる行動が多くなるように翌週のスケジュールを組み立て、それにチャレンジするサイクルを繰り返していきます。

 さらに「どんな行動が気分を良くするか」を試してみて(行動実験)、行動のレパートリーを増やしていきます。以前やれていた活動をリストアップし、簡単なことから再び取り組んでみるのも良いでしょう。難易度が高い活動の場合は、小さなステップに分割するのがコツです。例えば「服を買いに出かける」という活動は〈外出に必要な持ち物をそろえる〉〈バスの時刻を調べておく〉〈外出着に着替える〉〈玄関から出る〉…など、出来るだけ細かく分けることで、取り組みやすくなります。こうして「意外と悪くなかった、出来た」という実感を重ねることで、気分を改善していきます。

 

気をつける点はありますか

 

 「調子の良い時は行動する、悪い時は行動しない」というパターンには要注意です。そうした「症状中心」の生活を続けていると、症状に振り回される感覚が強まり、自信もなくなっていきます。気分が悪い時は悪いなりに、まずは小さなことからやってみることが大切です。

 また、この治療の肝心なところは、単に活動量を増やすことではありません。自分の本来の目的や人生で大切にしたい事(例:復職する、家族が仲良く過ごす、趣味に打ち込める等)に近づく行動を増やすことにあります。ですがそれに伴う苦痛のために、やるべきことを避けたり別の無駄な活動に没頭したりといった、「回避パターン」に陥ることがあります。その問題の克服には、「自分が大切にしている価値は何か」を改めて見つめ直し、行動の軸にすえる作業が必要となります。

 

誰でも取り組めますか

 

 急性期で病状が重い時は避けるべきです。また、周囲の人がやみくもに楽しいことをやらせて効果があるものでもありません。しかし、回復期に入った方や軽度の抑うつ状態が長引いている方、鬱々(うつうつ)とした毎日を変えたいと思う方では、取り組んでみても良いかもしれません。

 この治療の情報はインターネット上にもいくつかありますし、自分で取り組むための本も出版されています。治療中の方、あるいは自分ではうまく出来ない場合には、主治医や専門家に相談することをお勧めします。

 

参考文献:「うつ病の行動活性化療法」岡本泰昌、医学のあゆみ、242巻7号 p505-509 ’2012年、「行動活性化療法」鈴木伸一、臨床精神医学41巻8号、p1001-1005 ’2012年

2021/01/20

呼吸器疾患の重症化リスク(2021.1.20記)

大空会大道内科・呼吸器科クリニック 大道 光秀 院長

医療法人社団

大空会大道内科・呼吸器科クリニック

大道 光秀 院長
●1981年札幌医科大学卒業。札幌医科大学附属病院第三内科、札幌鉄道病院呼吸器科主任医長などを経て、2001年大道内科・呼吸器科クリニックを開設。日本呼吸器学会認定呼吸器専門医。日本呼吸器内視鏡学会認定気管支鏡専門医。日本感染症学会認定感染症専門医。医学博士
医療法人社団 大空会 大道内科・呼吸器科クリニック

 札幌市中央区北3条西4丁目 日本生命札幌ビル3階

https://www.ohmichi.or.jp/




新型コロナ「正しく恐れて」呼吸器疾患の重症化リスク

 新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に関してこれまでのデータや研究からその特徴の一端が分かってきました。確かな知識を持ち対策する「正しく恐れる」心構えが大切です。

 新型コロナは患者さんの8割が軽症のまま回復する一方で、2割は中等症や重症になるとされています。重症化しやすいのは、高齢者▽肥満▽糖尿病、高血圧、心血管疾患、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などの基礎疾患がある▽透析患者▽免疫抑制剤や抗がん剤を服用している──といった人たちです。

 今回は、COPDや気管支ぜんそくなど呼吸器疾患と新型コロナとの関連についてお話ししたいと思います。

 

COPDと新型コロナ

 

  COPDは、酸素を取り込むのに必須の肺胞という肺の部分がこわれ、また気道の空気の流れが慢性的に悪くなり、徐々に呼吸機能が低下していく病気で、主な症状はせきやたん、労作時の息切れなどです。

 COPDの患者さんは、新型コロナへの感染しやすさは正常人と変わりませんが、いったん感染すると、人工呼吸器をつけるほど重症化する割合がCOPDを持たない人に比べ、2~4倍高いことが報告されています。また、COPDの原因である喫煙も重症化する要因です。 正常の肺では、肺炎をおこしても、肺炎を起こしてない残りの肺で酸素を取り込む予備機能はあるのですが、COPDで壊された肺の残りの部分にウイルスがついて肺炎を起こせば、もともとの肺の予備機能が少なく、十分な酸素を取り込む事ができず、呼吸状態が急速に悪化します。ですから、COPDの患者さんでは定期の吸入薬を継続し、もともとの肺の予備機能を維持するようこころがけてください。

 

ぜんそくと新型コロナ

 

 ぜんそくの治療をしていても新型コロナへのかかりやすさは通常の人と同じです。またCOPDと違い、ぜんそくの患者さんは新型コロナ感染の重症化リスクではありません。

 一般に内服や注射などの全身にいきわたるステロイドは感染症を悪化させると言われていますが、ぜんそく治療に用いる「吸入ステロイド」は全身にいかず、新型コロナへの感染リスクを高めることは全くありませんし、抵抗力・免疫力の低下など全身への影響が出る心配も全くありません。

 実際に、定期で通院し、ぜんそくできちんと「吸入ステロイド」を吸入している患者さんでは新型コロナに感染した方は非常に少ないようです。一方、ぜんそくで治療を中断し、数か月~数年たった患者さんが、発熱や咳の悪化のため久しぶりに受診し、唾液のPCRでコロナ陽性となった患者さんは多いようです。その場合、咳がひどくても、通常は効果のあるステロイドの点滴もちゅうちょせざるを得ず、再開した吸入薬が効くまでの間苦しいのを我慢しなくてはなりません。また現在、コロナ患者さんの対応で通常の患者さんの入院のベッドが不足しており、ひどく悪化しても治療のために入院をする事は大変困難です。

 

適切な治療の継続が重要

 

 COPDやぜんそくの患者さんにとって、コロナ禍で一番のリスクになりうることは、治療を中断し、病状がコントロールできていない状態です。また、新型コロナが蔓延している間は、特例で(通常は医療法に抵触しますが)、落ち着いている患者さんでは電話をいただければ薬を送る事も出来ます。感染リスクよりも、COPDやぜんそくの治療を中断する不利益の方がずっと大きいです。自己判断で治療を中断するのではなく、適切な治療を継続することが何よりも重要です。

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