2022/05/20

腹痛や下痢が続く時は早期診断・治療を




札幌IBDクリニック
田中 浩紀 院長
●1999年札幌医科大学卒業。日本消化器病学会認定消化器病専門医。日本消化器内視鏡学会認定消化器内視鏡専門医。日本大腸肛門病学会認定大腸肛門病専門医。医学博士。
札幌IBDクリニック 札幌市中央区南19条西8丁目1-18 山鼻ドクタータウン2F
https://sapicl.com/




年々増え続けている指定難病の「IBD」

 IBDとは大腸や小腸など消化管に慢性の炎症が起きる病気の総称です。日本語では「炎症性腸疾患」と呼ばれています。IBDには「潰瘍性大腸炎」と「クローン病」という2つの病気があり、主な症状として腹痛や下痢、血便などをきたします。潰瘍性大腸炎は主に大腸に炎症が生じる病気ですが、クローン病は小腸や大腸のほか、口からお尻まですべての消化管に炎症が生じる可能性があります。

 すぐ命にかかわる病気ではありませんが、放置していると症状が悪化し、下痢がひどい場合には1日20回以上トイレにかけ込むこともあるほどで、生活の質に大きく影響します。

 潰瘍性大腸炎とクローン病はともに厚労省の指定難病(特定疾患)です。病気の詳しい原因は解明されていませんが、遺伝的素因があり、そこにいくつもの複雑な環境因子が加わり、免疫異常を起こしていると考えられています。IBDに苦しむ患者さんは年々増え続けており、最新の疫学調査によると潰瘍性大腸炎は約22万人、クローン病は約7万人いるとされています。決してまれな病気ではなく、特に潰瘍性大腸炎は指定難病で最多の患者数です。

 

早期診断・治療が重要“繰り返す症状”は専門医へ

 

 IBDは症状が落ち着いている状態(寛解)と悪化している状態(再燃)を繰り返し、慢性の経過をたどる病気です。未だ完治させる治療法が見つかっていないため、発症時(診断時)に症状がある場合は適切な治療によって「寛解へ導く」こと、そして、適切な治療を継続することで再燃をコントロールし、「寛解を維持する」ことが重要です。長期にわたり寛解の状態を維持することができれば、外出時の度重なる便意など日常生活に不安を抱えることなく、安定した毎日を送ることが可能になります。

 そのために重要なのが「早期診断・早期治療」です。早期に診断できれば、使える薬剤など治療の選択肢が広がり、また、治療が早ければ早いほど患者さんの生活の質を落とさないような治療効果が期待できます。ただし、IBDは個々の患者さんによって病状が多様で、ほかの消化器疾患と似た症状も含むため、比較的診断が難しい病気です。実際にIBDと診断されるまで時間がかかり、病院を転々としていた患者さんも少なくありません。腹痛や下痢、血便などの〝おなかの症状〟が続く場合にはIBDの可能性があるため、この病気の診療経験が豊富な医師や病院にかかることをお勧めします。

 

適切な治療の継続で難病でも普通の生活を

 

 難病になると普通の社会生活を営めなくなるというイメージがあるかもしれません。しかし、IBDにおいては検査や治療が目覚ましく進歩し、一人ひとりに合った正しい治療と日常生活の工夫により症状を抑えられれば、病気になる前とほとんど変わらない生活を送ることができます。実際に多くの患者さんが進学、就職、結婚、出産など人生の大切な節目も安定して乗り越えています。難病ではありますが、必要以上に恐れる必要はありません。

 何よりも大事なのは、治療により一度寛解状態になっていても自己判断で通院や服薬を中止・中断せず、再燃を予防するために適切な治療と定期的な検査を継続的に受けることです。こういった病気に対する正しい知識をもって、信頼できる医師と共に二人三脚でIBDに立ち向かっていってほしいと思います。

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