2024/10/18

医療のスティグマと、[NAFLD][NASH]の病名変更

<偏見や差別のない社会のために>


 スティグマとは、特定の人や集団に向けられる否定的な意味づけをされ、不当な扱いを受けることをいいます。例えば、精神疾患やHIV/AIDS、性的嗜好、人種、障害、疾病などへのネガティブなレッテル貼りが、偏見や差別を生じさせる原因となることなどです。

 昨年秋、日本糖尿病学会と日本糖尿病協会が、糖尿病の呼称として英語名の「ダイアベティス」への変更を提案し、道内の患者さんの間で賛同の声が広がっています。これは、現行の病名に「尿」が含まれることで不潔なイメージを持たれたり、怠惰な生活を送っていると誤解されたりするケースが後を絶たず、今も多くの患者さんが社会の理解不足に苦しんでいる現状から、糖尿病に関するスティグマを減らすことが目的です。

 医療現場で習慣的に使われる言葉の中で、スティグマが生じうる病名・用語を見直すことで、医療現場を起点にその病名などの持つ負のイメージを払拭し、その病気を抱える人が前向きに治療に取り組める環境を整備することは、非常に重要な活動だと思います。


<肝臓病2種の新たな病名が決定>


 あまり飲酒をしない人にも起こる肝炎「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」など2つの肝臓の病気について、日本消化器病学会と日本肝臓学会は今年8月、新たな病名を発表しました。

 NASHはアルコールやウイルス以外の原因で、肝臓が炎症を起こす病気です。NASHとその前段階の脂肪肝を合わせた病気は「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と呼ばれていましたが、元の英語名に含まれる単語「アルコホリック」と「ファッティ」が、それぞれ「アルコール依存」「太っていること」を意味して差別的だとして、昨年6月、欧州肝臓学会が病名を変更し、これを受けて日本語での名称が議論されてきました。

 新名称は、NASHの大部分が「代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)」、NAFLDは同様に「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)」と決まりました。これも、これらの病気に関するスティグマを払拭することが目的で、同時に、代謝の異常に関する病気であることを明確にし、病気の実態に即した病名にするねらいもあります。

 病名により不快な思いをし、不利益を被る人がいるのであれば、私たち医療者は、そうした人々が笑顔を取り戻すことができるよう力を尽くすべきであり、病気のある方の立場になって考え、優しく寄り添うことが大切だと考えています。




佐野内科医院
佐野 公昭 院長
1984年岩手医科大学卒業。89年北海道大学大学院修了。北海道大学病院、愛育病院、市立札幌病院などを経て、2008年より現職。日本内科学会認定総合内科専門医。日本消化器病学会認定消化器病専門医。日本消化器内視鏡学会認定消化器内視鏡専門医。医学博士

佐野内科医院
札幌市中央区南5条西15丁目1-6
http://www.sano-naika-clinic.com/


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