2024/09/19

静かに進み、失明を招く「糖尿病網膜症」

<自覚症状なく、3段階で進行>


 糖尿病網膜症は糖尿病の3大合併症のうちの一つで、目の網膜の血管が傷む病気です。現在、日本人の中途失明原因の第2位です。

 糖尿病では血糖値が高くなり、この高い血糖値が血管を傷めます。網膜には細い血管が張り巡らされており、高血糖が長期間持続すると網膜の血流障害が進み、さまざまな眼障害を引きおこします。

糖尿病網膜症は大きく3つの段階に分けられます。

 「単純網膜症」といわれる初期では、網膜の血管が傷んで細い血管にこぶができたり、弱くなった血管壁から血液や血漿(けっしょう)成分が漏れたりしますが、この段階では血糖値管理で良くなる可能性があります。次の「前増殖網膜症」になると血管が閉塞し、血流障害のため白い綿のように見える軟性白斑や、血管の異常が目立ってきます。最終段階の「増殖網膜症」になると、網膜に弱くて出血しやすい新生血管ができて、硝子体出血や網膜剥離を起こしやすい状態となり、放置すれば失明のリスクも高くなります。

 糖尿病網膜症は初期に気づくことは少なく、自覚症状が現れるのはかなり進んでから、というのも怖いところです。見えにくい、と目に異常を感じた時にはすでに増殖網膜症に進行していることもあり、治療しても完全に視力を取り戻すのが難しいケースも少なくないです。


<治療の中心は「抗VEGF薬」>


 糖尿病網膜症には、網膜の中心である黄斑に浮腫が合併するケース(糖尿病黄斑浮腫)もあります。初期から末期まであらゆる時期に起こる可能性があり、この場合は病態がそれほど進んでいなくても視力が落ちることがあります。

 糖尿病黄斑浮腫に対する治療としては、2014年から「抗VEGF薬」が保険診療として認められています。眼球内に直接抗VEGF薬を投与するもので、患者さんの体への負担が少なく、黄斑浮腫を軽減し、ある程度視力を改善できるようになりました。複数回の治療を要することや比較的高額な薬であることに留意する必要がありますが、他の治療法に比べて良好な治療効果を示し、急速に普及しました。近年は使用できる抗VEGF薬の種類も増えて治療の選択肢が広がってきており、以前よりは少ない治療回数での視機能維持が可能になりつつあります。

 また、糖尿病網膜症が重度になると、失明を避けるためにレーザー治療や硝子体手術が必要になる場合もあります。

 糖尿病網膜症が原因の失明を防ぐとともに、可能な限り視力改善・維持を目指すには、早期発見・治療が原則です。そのためにも、糖尿病と診断された時から定期的な眼底検査などのチェックが何よりも重要です。




大橋眼科
藤谷 顕雄 副院長
2005年北海道大学医学部卒業。時計台記念病院、手稲渓仁会病院、北海道大学病院などを経て、2019年4月より現職。日本眼科学会認定眼科専門医
大橋眼科 北海道札幌市白石区本通6丁目北1-1
https://www.ohashi-eye.jp/

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