医療法人 喬成会
花川病院
菅沼 宏之 院長
●北海道大学卒。日本リハビリテーション医学会指導医、認定臨床医、リハビリテーション科専門医、日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士。
●花川病院 石狩市花川南7条5丁目2番地
http://kyouseikai.jp/hanakawahp/
コロナ禍でのリハビリ診療
新型コロナウイルス感染症が大きな脅威となっていますが、これまでに多くのことも分かってきています。現在では多くの病院で院内感染を防ぐ方法を学習しました。リハビリテーションの現場では患者さんとセラピストの接触が多く、また介助が必要な患者さんではさらに密接に接触する機会が増えます。このため、リハビリにおいては特に感染対策を強化して治療・ケアにあたるケースが多いです。患者さんとリハビリ専門職(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士)相互の体温測定・マスク着用・手指消毒の徹底、近接する場面においてはセラピストのゴーグルやフェイスシールドの使用、リハビリ室の人数制限と換気と共有部分・器具の定期的消毒など、可能な限りの感染防護体制を整え、患者さんたちが安心してリハビリに取り組んでもらえるよう不断の努力を続けています。
「回復期」のリハビリ診療
事故に遭ったり病気で倒れたりした直後を「急性期」と呼びます。急性期に手術など必要な処置をし、容体が落ち着いたら、最長6カ月の「回復期」に入ります。ここで治療後に低下した能力を回復するため、さまざまな専門職が共同して集中的なリハビリを実施するのが、回復期リハビリです。以前は「手術後は安静第一」と考えられていましたが、世界的に研究が進む中で「手術直後でも起き上がって動いた方が回復は早い」ということが明らかになっています。在宅復帰に効果を上げるためには、回復期リハビリを少しでも早く集中的に行うことが非常に重要です。
回復期リハビリの対象となるのは、主に脳卒中や頭部外傷、交通事故による複雑骨折、外科手術などの治療の安静により生じた廃用症候群を有する患者さんなどです。脳卒中は5〜6カ月間、骨折は2〜3カ月間など、疾患に応じて入院できる上限が決まっており、最大1日9単位(1単位20分、最大3時間)まで保険診療が認められています。
患者さんの病状や要望、生活背景などに応じて個別に目標が設定され、一人ひとりに合わせたリハビリ計画を立てます。医師を中心に他職種が密接に連携するチームアプローチが不可欠です。医師、看護師、リハビリ専門職、管理栄養士、薬剤師、医療ソーシャルワーカーらが連携して一つのチームとなり、入院中のリハビリだけでなく、退院した後も快適な暮らしができるようサポートすることが重要です。
リハビリ医療の現在と未来
近年、リハビリ分野は飛躍的な進歩を遂げ、新しい多くの治療法が開発されています。以前は「脳卒中などの後遺症は回復しない」という概念が定説化されていた時代もあり、例えば麻痺(まひ)のある手の回復よりも麻痺のない手の訓練を集中的に行うことにより早期に日常生活動作の向上を図ることが主流でした。しかし、現在ではまひのある手を積極的に動かすことが脳を刺激し、後遺症の改善につながることが分かっています。リハビリによりその患者さんに残された機能を強化するだけでなく、障害のある部位・領域にはよりますが失われた機能の回復・改善も期待できるようになってきました。
支援ロボットを用いるリハビリも新しい治療法の一つです。すべての患者さんに有効というわけではありませんが、従来のリハビリと比べ、より安全性・効率性の高い治療・ケアが可能となり、回復速度の向上や機能改善につながっています。
医療現場は日進月歩です。今はまだ「不治の後遺症」も近い将来に「治りうる症状」となる日がやってくるはずです。私たちリハビリ医療関係者も日々学び、進化し続けることを望んでいます。