大橋眼科
藤谷 顕雄 副院長
●2005年北海道大学医学部卒業。時計台記念病院、手稲渓仁会病院、北海道大学病院などを経て、2019年4月より現職。日本眼科学会認定眼科専門医
●大橋眼科 札幌市白石区本通6丁目北1-1
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網膜静脈閉塞症による視力障害
眼球をカメラに例えると網膜はフィルムにあたり、光や色を感じるのに重要な膜状の組織です。網膜中央近くの視神経乳頭から網膜動脈が網膜全体に広がり、その中の血液が酸素や栄養を運びます。網膜を栄養した血液は網膜静脈に流れ込み、視神経乳頭から眼外へ出ます。
網膜静脈閉塞症は網膜静脈の血流が詰まることで発症します。血液が血管からあふれ出て網膜出血となり、循環が悪くなるため網膜の浮腫(むくみ)や虚血も起きます。網膜中心部の浮腫(黄斑浮腫)が起こると、ものがゆがんで見え、視力が低下します。また、虚血が強いと眼内に新生血管が発生し、急激な視力低下の原因となる硝子体出血や、血管新生緑内障という失明につながる特殊な緑内障の原因となります。
多くの場合、高血圧などによる動脈硬化を背景として、網膜静脈の中で血流が滞って血栓ができることが原因とされます。無症状の方を含めると40歳以上の2%程度に見られ、決して珍しい病気ではありません。枝分かれした周辺の静脈が詰まると「網膜静脈分枝閉塞症」、視神経乳頭部で静脈の根元が詰まると「網膜中心静脈閉塞症」といい、詰まった範囲や程度によって病状が異なります。
眼内注射で黄斑浮腫を抑えるのが最優先
視機能に直結する黄斑浮腫を改善することが最優先となります。黄斑浮腫に対して最も効果的なのは、抗血管内皮増殖因子(VEGF)抗体という薬の眼内注射です。循環が悪くなった虚血網膜からVEGFという物質が出て黄斑浮腫の原因となりますが、抗VEGF抗体はその働きを抑えます。治療効果に優れ比較的短期間で浮腫は改善しますが、効果が不十分な場合もあります。また、注射の効果は2~3か月で消失するため再発もめずらしくありません。複数回投与も可能ですが、高価な薬剤であること、注射の際に少なからずリスクがあることも課題です。
広範囲で血流が詰まった場合、硝子体出血や血管新生緑内障を予防するためにレーザー治療で虚血網膜を焼きます。他にも、ステロイド剤の眼局所への注射や、状況によっては硝子体手術を行うこともあります。
定期的な自己チェックと眼科検診を
黄斑浮腫がおさまると視機能の改善が期待できますが、網膜の障害が強いと改善は難しくなります。ゆがみや視力低下などの異常を感じたら放置せず、すぐに眼科を受診してください。普段は両眼でものを見ることが多いため、片眼ずつで見え方を確認すると病気の発症、悪化に早く気付けます。また、合併症は数年経ってから出ることもあり、自覚症状が落ち着いていても定期検査が必要です。
加齢による目の病気は様々ですが、早期発見・治療が大切です。40歳を過ぎたら特別な症状が無くても定期的な眼科受診をお勧めします。