佐野内科医院
佐野 公昭 院長
●1984年岩手医科大学卒業。北大大学院修了。日本内科学会認定総合内科専門医。日本消化器病学会認定消化器病専門医。日本消化器内視鏡学会認定消化器内視鏡専門医。医学博士
●佐野内科医院 札幌市中央区南5条西15丁目1-6
http://www.sano-naika-clinic.com/
GERD(胃食道逆流症)ってどんな病気?
胸がむかむかする胸やけや、酸っぱいものがこみ上げてくる呑酸(どんさん)。これらの症状は胃酸が胃から食道に逆流して起こる「GERD=ガード」の可能性があります。
GERDは「胃食道逆流症」の英語の頭文字をとった略語で、胃の内容物が食道に逆流して起こる病気の総称です。胃内容物の食道への逆流が頻繁に起こるようになると、胃液の中の酸や消化酵素のために、胸やけや呑酸が起こります。また、胃酸のために食道粘膜がただれて食道炎が起こる場合もあります。そのほか、胸痛、ぜんそく、咽喉頭部異常感、中耳炎、歯の酸蝕症といった食道以外の臓器の病気や症状と関係しているのではないかと言われています。
逆流する主な原因は、食道と胃の間を閉じている下部食道括約筋部の衰えです。年齢を重ねるにつれてこの筋肉部が弱まって、食道と胃の間が開き、胃酸が逆流しやすくなります。加齢や腹圧の上昇などによって、胃が食道側に飛び出す「食道裂孔ヘルニア」も原因の一つです。内服薬が関係する場合もあります。
近年、GERDの患者数は著しく増加し、成人の約1割がかかっていると推定されます。その理由として、高齢社会の進展、食生活の欧米化、肥満者の増加のほか、ピロリ菌の保有率が減ったことが挙げられます。胃がんの原因になるピロリ菌の感染減少は良いことですが、ピロリ菌のいない健康的な胃は胃酸が出やすいので、結果的にGERDの増加につながっています。
GERDは睡眠障害など生活の質を低下させ、毎日の仕事にも影響を及ぼします。より良い生活を保つためにも、できるだけ早く正しい診断を受け、適切な治療を始めることが大切です。
GERDの診断と治療
診断に重要なのは患者さんの自覚症状です。まず問診を行い胸やけの有無やどのような時に症状が出るのかなどを確認します。GERDを疑う場合に用いられる問診票はいくつか種類がありますが、どれも初期診断に有用なことが分かっています。いくつかの問診票は症状の頻度を点数化していて治療の効果判定にも有用です。GERDを診断するためには、内視鏡検査が必要になります。どうしても検査ができない場合には内服薬による治療を先に行ってみることもありますが、短期間の服用にとどめ、症状が再発する場合には必ず検査を受けて下さい。特殊な検査として24時間食道インピーダンス・pHモニタリングと言って食道への胃酸、胃液や食物残渣などの逆流の有無を判別する検査を行う場合もあります。
原因や重症度など、段階によりさまざまな治療法や治療の手順がありますが、第一の治療は生活習慣の改善です。脂肪の多い食事、甘いものの食べ過ぎは控えた方がいいでしょう。また、食後すぐに横になるのをやめ、就寝の少なくとも2時間前、できれば3時間前からはものを食べないようにします。就寝時は頭を高くしたり、体の左側を下にする姿勢にしたりすると逆流しにくくなります。肥満やたばこも良くありません。
第二の治療は薬物療法です。胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)は、その強力な作用で症状を改善させる代表格です。近年は、PPIの中でより強く酸分泌を抑えるカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P‐CAB)という薬剤が使われるケースが増えてきました。このほか、食道の粘膜を保護する薬や胃の動きをよくする薬、漢方薬なども使います。自覚症状や食道炎が改善した後にさらに薬物療法を続けるかどうかは、患者さんごとに判断します。再発が多い病気なので、主治医とよく相談したうえで、ご自身に合った薬の飲み方をしてください。
内科治療で思わしい改善が認められない場合、胃食道逆流を起因とした喘息や嗄声、咳嗽、胸痛、誤嚥など食道以外の症状を有する場合は外科治療が考慮されます。以前は開腹術が行われていましたが、最近は腹腔鏡を用いた手術や内視鏡的な治療など体に負担の少ない治療法が主流になってきています。