2021/08/20

パニック症・広場恐怖について

岡本病院 山中 啓義 副院長



医療法人社団正心会
岡本病院
山中 啓義 副院長
●日本精神神経学会認定精神科専門医、日本医師会認定産業医、精神保健指定医
医療法人社団正心会 岡本病院 札幌市中央区北7条西26丁目3番1号






突然の恐怖に駆られるパニック症の発作

 「テスト前にパニックになる」「怖い映画を観てパニックになる」─このように何かしらの誘因があって症状が出るものはパニック症ではないというのがポイントです。つまり、パニック症は〝何の前触れもなく突然に〟交感神経症状や過換気症候群を起こす病気のことです。国内有病率は1.8%と推定され、成人女性に好発します。

 症状は「発作時」と「非発作時」の2つに分けられます。発作時の症状は、突然の交感神経症状(動悸、心拍数増加、発汗、震え、息苦しさ、窒息感、めまい)や過換気症候群です。過換気になると体内の二酸化炭素が必要以上に呼吸として排出されてしまい、血液がアルカリ性になります(呼吸性アルカローシス)。これにより、血中のカルシウム濃度が低下し、手足のしびれやひきつけなどのテタニー症状があらわれます。発作はいきなりの出来事なので「このまま死んでしまうのではないか」という恐怖を抱き、それは10分以内にピークに達するといわれています。



非発作時の症状,予期不安と広場恐怖

 

 非発作時の症状ですが、発作を何度も経験すると「また、あの発作が起こるのではないか」「外出先で発作が起きたらどうしよう」という不安が常につきまとうようになります。これを「予期不安」と呼びます。さらに繰り返し発作を起こすと、以前発作を起こした場所や発作が起きたときにすぐに助けを得られないような場所(電車、地下鉄、飛行機、エレベーター、MRI、歯医者、美容室など)を避けたり恐れたりするようになります。これを「広場恐怖」と呼びます。広場恐怖とは「広い場所が怖い」のではなく、むしろ「狭い場所」のイメージです。

 


心理・薬物療法が柱専門医で適切な治療を

 

 原因についてはさまざまな研究報告がありますが、脳のある部分(大脳・大脳辺縁系・青斑核・視床下部)に通常とは異なる変化が起こっているのではないかと指摘されています。また、神経化学伝達物質であるセロトニンの分泌異常が関与しているとも考えられています。

 診断は詳細な問診に加えて、パニック症重症度尺度(PDSS)を用います。PDSSは症状の重症度を評価する尺度で、中核症状7項目を0から4の5段階で評価します。治療は心理療法である認知行動療法、薬物療法、セルフヘルプ(自身で認知行動療法の本を読むなど)のどれかを好みにより選択することが推奨されています。薬物療法では、抗うつ薬「SSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)」のパロキセチン塩酸塩水和物とセルトラリン塩酸塩は保険適用されており、第一選択薬として推奨されます。

 この病気を放置すると「うつ病」を合併するケースが多いことが報告されています。また、パニック症は循環器領域や呼吸器領域の病気(狭心症、不整脈、気管支ぜんそくなど)の症状と類似しており、内科や救急科においても鑑別診断の念頭に置くべき疾患の一つです。パニック症はとても辛いものですが、この病気で命を落とすことはありません。必要以上に恐れず、思い当たる症状があれば精神科・心療内科を受診してください。

人気の投稿

このブログを検索