2020/12/19

「回復期リハビリテーション」とは?<改訂版>

花川病院 菅沼宏之 院長 


医療法人 喬成会

花川病院

菅沼宏之 院長
●北海道大学卒。日本リハビリテーション医学会指導医、認定臨床医、リハビリテーション科専門医、日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士
花川病院 石狩市花川南7条5丁目2

http://kyouseikai.jp/hanakawahp/




「回復期リハビリテーション」とは?

 事故に遭ったり病気で倒れたりした直後を「急性期」と呼びます。急性期に手術など必要な処置をし、容体が落ち着いたら、最長6カ月の「回復期」に入ります。ここで治療後に低下した能力を回復するため、さまざまな専門職が共同して集中的なリハビリを実施するのが、回復期リハビリテーションです。

 以前は「手術後は安静第一」と考えられていましたが、世界的に研究が進む中で「手術直後でも起き上がって動いた方が回復は早い」ということが明らかになっています。在宅復帰に効果を上げるためには、回復期リハビリを少しでも早く集中的に行うことが非常に重要です。

 

リハビリはどのように進めますか。

 

 回復期リハビリの対象となるのは、主に脳卒中や頭部外傷、交通事故による複雑骨折、外科手術などの治療の安静により生じた廃用症候群を有する患者さんなどです。脳卒中は5〜6カ月間、骨折は2〜3カ月間など、疾患に応じて入院できる上限が決まっており、最大1日9単位(1単位20分、最大3時間)まで保険診療が認められています。

 座る、立つ、歩くといった基本動作の訓練から始め、食事や入浴、着替え、排泄など日常生活に必要な動作が自分でできるような訓練へと進めていきます。自宅・社会復帰を目的としますが、家庭環境や仕事内容など条件は人それぞれですので、患者さんの病状や要望、生活背景などに応じて個別に目標が設定され、一人ひとりに合わせたリハビリ計画を立てます。

 回復期リハビリには、医師を中心に多職種が密接に連携するチーム医療が不可欠です。施設の体制により異なりますが、医師、看護師、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)、医療ソーシャルワーカーらが連携して一つのチームとなり、入院中のリハビリだけでなく、退院した後も快適な暮らしができるようサポートしていきます。

 

ロボットによるリハビリについて教えてください。

 

 近年、リハビリを支援するロボットが次々に登場して効率的なリハビリに貢献しています。特に注目を集めているのが、トヨタ自動車と藤田医科大学(愛知県豊明市)とが共同開発した「下肢麻痺(まひ)リハビリ支援ロボット」です。脳卒中などで麻痺した脚にロボット脚を装着し、本体の可動式床の上を歩行練習するもので、2017年秋に登場しましたが、20年2月より後続機種の医療現場への導入が進んでいます。患者さんが転倒することなく、運動機能の回復を効率的に図れる機能がさらに向上し、患者さんのモチベーション維持を支援する機能などが追加されたことで、患者さんの障害の程度に応じ、より長時間・多数歩の練習支援が可能になっています。従来の歩行リハビリや従来機種によりリハビリ支援と比べ、各療法士(PT、OT、ST)の業務負担を軽減しながら、患者さんの回復速度の向上や歩行機能の改善が多数報告されています。

 人と人との触れ合いが重要視されるリハビリの現場で、すべての手技・施術をロボットに置き換えることはできません。理学療法士、作業療法士の専門的な知識と技術は不可欠ですが、その上で、リハビリ支援ロボットを用いて人間の足りない部分を補うことで、より安全性・効率性の高いリハビリを実現しています。

 

施設を選ぶ時のポイントについて教えてください。

 

 リハビリは量と質の両面を充実させることが非常に重要です。まず量の面ですが、各療法士の数が多く、患者さん1人あたりに十分なリハビリを提供できているか。また、リハビリは切れ目なく、継続して行うことが大切なので、休日も休まずリハビリが提供されているかがポイントです。次に質に関してですが、チーム医療が徹底されていることが第一。すべての職種が相互に他領域への理解を深めることで、全スタッフが患者さんの全体像を描けるようになるからです。リハビリの専門医が勤務していること、PT、OT、STがバランスよく配置されていることもポイントになります。

2020/11/20

中途失明の原因の第2位、糖尿病網膜症

大橋眼科 藤谷 顕雄 副院長




大橋眼科
藤谷 顕雄 副院長
●2005年北海道大学医学部卒業。時計台記念病院、手稲渓仁会病院、北海道大学病院などを経て、2019年4月より現職。日本眼科学会認定眼科専門医士
大橋眼科 札幌市白石区本通6丁目北1-1

https://www.ohashi-eye.jp/





中途失明の原因の第2位、糖尿病網膜症

 糖尿病網膜症は腎症、神経障害と並ぶ糖尿病の3大合併症のうちの一つで、目の網膜の血管が傷む病気です。2019年現在、日本人の中途失明原因の2位を占めます。厚労省の国民健康・栄養調査によると、糖尿病が強く疑われる成人の患者は16年時点で約1000万人と推計されています。

 

自覚症状がほとんどなく、3段階で進行

 

 糖尿病は、高血糖が続く病気です。そして、この高い血糖値が血管を傷めます。網膜には細い血管が張り巡らされており、高血糖が長期間持続すると網膜の血流障害が進み、さまざまな眼障害を引きおこします。糖尿病網膜症は大きく3つの段階に分けられます。

 「単純網膜症」といわれる初期では、網膜の血管が傷んで細い血管にこぶができたり、弱くなった血管壁から血液や血漿(けっしょう)成分が漏れたりしますが、この段階では血糖値管理を徹底すれば良くなる可能性があります。

 次の「前増殖網膜症」になると血管が閉塞し、白い綿のようにみえる軟性白斑が網膜にできることもあります。さらに進んで最終段階の「増殖網膜症」になると、網膜に弱くて出血しやすい新生血管ができて、硝子体出血や網膜剥離を起こしやすい状態となり、放置すれば失明のリスクも高くなります。

 この病気が厄介なのは、前増殖網膜症まで進行してもなかなか自覚症状が表れないところです。見えにくい、と目に異常を感じた時にはすでに増殖網膜症に進行してしまっている可能性が高く、治療しても完全に視力を取り戻すのが難しいケースも少なくありません。

 

第2段階以降の治療法

 

 前増殖・増殖糖尿病網膜症においては、血管の血漿成分が漏れ出てくる部位や、血管が閉塞して血液が通わずに酸素や栄養が供給されていない部位などに、レーザー光線を照射し網膜を焼く「網膜光凝固術」が多くの場合必要となります。この治療を行うと、網膜全体の栄養状態が改善し、新生血管の発生を抑え、病気の進行を抑えることができます。網膜光凝固術は外来で点眼麻酔をして行います。10分程度で治療は行えますが、複数回行う必要があります。

 新生血管から出血したり、網膜剥離を起こしたりしている場合は「硝子体手術」を行います。

 

黄斑部に糖尿病網膜症が起こると…

 

 糖尿病網膜症には、網膜の中心である黄斑に浮腫を合併するケース(糖尿病黄斑浮腫)もあります。初期から末期まであらゆる時期に起こる可能性がり、この場合は病状がそれほど進んでいなくても視力が落ちることがあります。

 糖尿病黄斑浮腫に対する治療としては近年、「抗VEGF薬」が保険診療として認められました。眼球に直接抗VEGF薬を投与するもので、患者さんの体への負担が少なく、黄斑浮腫を軽減し、ある程度視力を改善できるようになりました。 ただ、複数回の治療を要すことやまれではあるものの感染の危険性があること、保険適用であっても自己負担が比較的高額な治療であることに留意する必要があります。黄斑浮腫の治療には、ほかにステロイド剤投与、レーザー治療、硝子体手術も検討されます。

 

糖尿病と診断されたら、眼科の受診も

 

 まずは糖尿病にならないようにすることが大事ですが、健診などでもし糖尿病と診断されたら、ぜひ、眼科も受診するようにお願いします。糖尿病網膜症が原因の失明を防ぐとともに、可能な限り視力回復・改善を目指すには、早期発見・治療が原則。そのためにも、糖尿病と診断された時から定期的な眼底検査などのチェックが何よりも重要です。

2020/10/19

おしりや肛門付近の[痛み]は“痔のサイン”



藻友会 札幌いしやま病院

札幌いしやまクリニック

川村 麻衣子 医局長
●札幌医科大学医学部卒業。日本大腸肛門病学会認定大腸肛門病専門医。医学博士
札幌いしやま病院 札幌市中央区南15条西10丁目4-1
●札幌いしやまクリニック 札幌市中央区南15条西11丁目2-1
http://ishiyama.or.jp/





おしりや肛門付近の[痛み]は“痔のサイン”

 「排便時に痛みがある」「肛門が腫れて痛みを伴う」など、おしり、特に肛門周辺に痛みを感じた場合、さまざまなおしりのトラブルが考えられますが、最も頻度が高いのは「痔」です。

 痔は肛門周囲の病気の総称です。なかでも「痔核(いぼ痔)」「裂肛(切れ痔)」「痔瘻」は、痔の患者さんの約8割を占める3大疾患です。男女を問わず圧倒的に多いのが痔核です。女性の場合、2番目に多いのが裂肛で、男性に多くみられるのが痔瘻です。

 

裂肛の主な原因は便秘

 

 排便前後におしりが痛くなったり、排便時に紙に少量の血がついたりという症状がある人は、裂肛の可能性があります。裂肛は、便の出口である肛門上皮にできた傷のことで、その原因で最も多いのは便秘です。硬い便を無理やり出そうとして強くいきんだ時に切れてしまうのです。裂肛になると、便意があってもまた痛い思いをするのが嫌で、つい排便を我慢してしまいがちになり、その結果ますます便秘になり、裂肛を悪化させるという悪循環に陥ります。慢性化すると、裂肛の傷が深くなる「肛門潰瘍」や肛門が狭くなる「肛門狭窄」を引き起こすなど、簡単には治らなくなるので注意が必要です。

 

激しく痛む血栓性外痔核と嵌頓(かんとん)痔核

 

 肛門の内側にできる内痔核では痛みを感じませんが、肛門の外側にできる外痔核には痛みを感じます。特に、肛門部の血行が悪くなり、突然肛門周囲に硬いしこり(血栓)ができることがあり、これを「血栓性外痔核」といいます。急に腫れて激しく痛み、時には皮膚が破れて出血することもあります。 また、肛門の外に飛び出した痔核内に血栓がたくさんできて腫れる「嵌頓痔核」という状態になる人もいます。こちらも突然の激しい痛みが特徴です。

 

おしりに膿(うみ)のトンネルができる痔瘻

 

 痔瘻は、おしりに膿のトンネルができて化膿を繰り返す病気です。手術でトンネルを取らない限り、何度も細菌感染を起こして痛みや腫れを繰り返します。

 痔瘻の前段階の「肛門周囲膿瘍(のうよう)」という状態でも肛門周囲が腫れて激しく痛み、発熱することもあります。

 

自己判断は禁物,我慢せず早めに受診を

 

 そのほか、おしりの痛みの原因としては、お風呂や温水洗浄便座での洗いすぎで炎症を起こし、それが引き金となって痛みや痒みが出るケースや、魚や鶏の骨などを誤飲し、それらの異物が腸や肛門などに刺さって化膿しているといった珍しい症例もあります。また、痛みや出血の背後に、直腸がんや肛門がんなど命にかかわるような怖い病気が隠れていることも考えられます。

 「多分、軽い痔だから大丈夫」などの自己判断は禁物です。たとえ痔であっても自然治癒しないケースも多いですし、市販の薬が効かなかったり合わなかったりする症例も少なくありません。おしりが痛い、おしりの調子が悪いと感じた時は、決してがまんせずに、気軽に肛門外科を受診し、早めに対処してほしいと思います。おしりの病気は、決して特別なことでも恥ずかしいことでもありませんが、女性医師による女性患者さんのみの診療日を設定している医療機関もありますので、調べてみるといいでしょう。

2020/09/17

精神科における「病識のない」患者さん

岡本病院 瀬川 隆之 医師



医療法人社団 正心会
岡本病院
瀬川 隆之 医師
●精神保健指定医。日本精神神経学会認定精神科専門医
岡本病院 札幌市中央区北7条西26丁目3-1
http://www.okamoto-hp.com/




精神科における「病識のない」患者さん

 病識とは簡単にいえば「病気にかかっている自覚」のことです。精神疾患では、自分が病気であることが分からなくなることがあります。これを「病識がない状態」と呼びます。これは、単に「病気についての知識が足りない」ということではなく、「自分の病状、状態を客観的にみることができない」という症状なのです。

 病識がない状態は、統合失調症、うつ病、躁うつ病、認知症など、さまざまな精神疾患でみられます。周囲からみると病的であるのは明らかなのに、本人はそのように考えていませんから、妄想などの病的な体験に支配されていろいろな問題行動を起こしてしまいます。病識がないことは、特に幻聴、妄想が活発な統合失調症の患者さんで問題になることが多く、今回はそのような患者さんを念頭に置いてお話しします。

 
病識のない患者さんを受診につなげるには


 病識のない患者さんを受診につなげるには工夫が必要です。真正面から「あなたの言っていることはおかしい、医者に診てもらおう」と説得したのでは、おそらくトラブルになってしまうでしょう。患者さん本人は幻聴、妄想などの病的な体験を真実だと思っていますので、ご家族などの周囲の方はその体験が本当かどうかについては争わず、不眠や不安、恐怖や緊張といった患者さん本人が苦しんでいる他の症状を聞き出し、それらの症状が治療で楽になる可能性を伝え、受診を促してください。

 しかし医療の必要性をまったく感じていない患者さんの場合、どんなに工夫を凝らしても受診につなげられないケースがあります。そういう時は、何か問題行動を起こしたタイミングで、救急や警察が介入し、法律に基づいた強制的な入院という形での受診になることが多いです。


受診後、どのように患者さんにかかわっていくのか


 どうにかして受診につなげることができても、そこから適切な治療を進めていくのにもまた工夫が必要です。医療者側が病気やその治療について「正しい知識を教えてあげるのだ」という押し付けのような態度を取ってしまうと、患者さんは反発し、心を閉ざしてしまいます。

 患者さんと良い関係を築くためには、まずは患者さんの話をよく聞いた上で、「私たちはあなたの味方」であり、「あなたの困り事を解決する手助けをしたい」という思いを伝える必要があります。

 病識がなく、治療を望んでいない患者さんとかかわる方法にLEAP(リープ)というコミュニケーション技法があります。簡単にいうと、傾聴し(Listen)、共感し(Empathize)、同意できる(Agree)共通の目標を見つけ、協力関係(Partner)となる方法です。同意できる共通の目標は、「退院する」「家族と仲直りする」「仕事に復帰する」など、ひとまず何でもいいと思います。LEAPの詳しい内容については「病気じゃないからほっといて(ザビア・アマダー著/星和書店)」という一般の方にも比較的分かりやすく書かれている書籍が出ていますので、興味のある方は読んでみてはいかがでしょうか。

 

 治療を望まない患者さんを治療しなければならない場面が多いのが精神科の特徴です。病識のない患者さんには、こちらの善意はストレートには伝わりません。それぞれの疾患や、患者さん一人ひとりの病状、性格や生活背景などを考慮した接し方、治療法などの工夫が必要です。

2020/08/20

長引くせき、ぜんそくではありませんか?

大道内科・呼吸器科クリニック 北田 順也 副院長



医療法人社団 大空会
大道内科・呼吸器科クリニック
北田 順也 副院長
●日本呼吸器学会呼吸器専門医、日本呼吸器内視鏡学会気管支鏡専門医
大道内科・呼吸器科クリニック
 札幌市中央区北3条西4丁目 日本生命札幌ビル3階
https://www.ohmichi.or.jp/




あなたのその長引くせき、ぜんそくではありませんか?

 季節の変わり目などにかぜをひいた際、せきに悩まされている方も多いと思います。そのなかで、かぜの諸症状は治ったのに、せきだけが長引いているという方はいらっしゃらないでしょうか。実は、そのせきの正体がぜんそくであることは珍しくありません。

 ぜんそくは、空気の通り道である気道に炎症が起きる病気です。呼吸をする時に〝ゼイゼイ〟〝ヒューヒュー〟などと音のする喘鳴(ぜんめい)が症状の特徴である「気管支ぜんそく」や、乾いたせきが続く「せきぜんそく」などがあります。

 気管支ぜんそくの患者さんの気道は過敏になっており、アレルゲン(ダニやハウスダストなど)やウイルス、タバコの煙や冷たい空気による刺激、そのほかに運動、飲酒、ストレス、疲労、女性の場合には月経や妊娠などを原因とし、それらに反応して気道が狭くなっています。気道が狭まると、せきが出たり息苦しくなったりします。

 

ぜんそくの治療は、ステロイド吸入薬が基本

 

 せきが続くのはかぜが長引いているせいだろうと考え、かぜ薬やせき止め、抗生物質を服用しても、ぜんそくによるせきにはほとんど効果がありません。

 ぜんそくの治療では吸入薬、内服薬を併用します。なかでも、吸入薬を主な治療薬として用い、炎症を起こし狭まってしまった気管支を正常の状態に近付くようにし、それを維持していくことが重要です。呼吸を楽にする「気管支拡張薬」を使うだけでは治療として不十分で、気道の炎症を抑える作用のある「吸入ステロイド薬」を適切に投与する必要があります。

 ステロイドというと「副作用が強い」というイメージを持つ方もいらっしゃると思いますが、ステロイド薬そのものは「副腎皮質ホルモン」というもともと人体にある物質を基礎にしてつくられた医薬品です。医師が症状に合わせて適切な量、強さのステロイド薬を処方しているのであれば、副作用を過剰に恐れる必要はありません。また、ぜんそく治療におけるステロイドの投与は、吸入という形で口から気管支(気道)に直接薬を届けるので、全身に作用する飲み薬や注射薬による投与に比べ、身体への負担は少なく、かつ高い効果が見込めます。

 

早期発見・治療が重要怖い病気が隠れていることも

 

 ぜんそくは早期発見・治療が重要です。3週間以上せきが長引く場合は専門医の受診をお勧めします。

 長引くせきの原因には、ほかにも肺がんや肺結核、副鼻腔炎に関連したせき、アトピー咳嗽(がいそう)、かぜやインフルエンザの感染後咳嗽、マイコプラズマやクラミジア、百日ぜき、逆流性食道炎など、実にさまざまなものがあります。

 このように、長引くせきの背後にはほかの病気、時には命にかかわるような怖い病気が隠れている可能性もあります。たかがせきと放っておかずに、呼吸器内科を受診し、血液検査やレントゲン検査、呼吸機能検査などの詳しい検査と、病気・症状に応じた適切な治療を受けてください。

2020/07/13

幻覚や妄想の症状が生じる精神疾患

福住メンタルクリニック 宇佐見 誠 院長


医療法人 五風会 
福住メンタルクリニック
宇佐見 誠 院長
●1994年旭川医科大学医学部卒業。日本精神神経学会認定精神科専門医。精神保健指定医
福住メンタルクリニック 札幌市豊平区月寒東1条15丁目1-20メープル福住ビル3階
http://www.fukuzumimc.jp/




「幻覚」や「妄想」が生じる精神疾患

 幻覚や妄想を引き起こす原因として、いくつかの精神科の病気が考えられます。今回は、①年代 ②幻覚や妄想以外の症状 ③幻覚や妄想の内容から代表的な精神疾患を4つ紹介します。

 10代後半から30代といった若い世代に発症しやすいのが「統合失調症」です。思考や感情などをうまく制御できなくなり、幻覚や妄想、認知機能低下などが表れる病気です。30代から50代までに多くみられるのが「うつ病(などの感情障害)」、60代以降の高齢者がかかりやすいのが「認知症」と「せん妄」です。せん妄とは、病気などで体調が悪化したり、手術後の薬が体調に合わなかったりした際に発症しやすくなる軽度のパニック状態(意識の混濁)のことです。


幻覚・妄想以外の症状と幻覚・妄想の内容

 
 統合失調症の場合、会話や行動に統一性がないように見えたり、感情が乏しく、無気力になったりという症状もみられます。周りに誰もいないのに命令する声や悪口が聞こえたりする幻聴、「ずっと監視されている」「命を狙われている」などの妄想が特徴です。

 うつ病は、気持ちがふさぎ込む、何にも興味や関心を持てない、身体的な不調(食欲がない、眠れない、疲れやすい)などの症状もあります。幻覚よりは妄想が多く、自分が行ったことを罪だと考えたり、重い病気にかかったと思い込んだり、お金に関して必要以上に心配事を抱いたりするのが特徴です。

 認知症の場合、記憶障害やここがどこか、今いつなのか分からない見当識障害、人格・性格の変化も代表的な症状です。認知症の妄想として頻繁に表れるのが、物盗られ妄想で、自分の持ち物を失くし、見つけられず、誰かが盗んだのではと疑ったり騒いだりするものです。

 せん妄は、もうろうとして話のつじつまが合わなかったり、意識がくもってぼんやりしたり、一瞬「寝ぼけているの?」と思えるような症状が表れます。幻覚・妄想は実際にはいない虫などの小動物や人が見える幻視が特徴ですが、症状は一時的なものであることが多く、身体の回復に伴って改善し、大半は症状があった時のことを覚えていません。

 

幻覚・妄想が起こった時に心掛けたい対応

 
 幻覚や妄想の症状がある本人に対して、ご家族はどう対応すればいいのでしょうか。幻覚・妄想があるようだと周囲が認識した時、「何も見えない」「そんなことはありえない」などと頭ごなしに否定すると、本人が混乱して状態を悪化させる可能性があります。まずは否定も肯定もせず、本人に起きていることを正確に把握するためにも、本人の訴えを中立的に聞くという姿勢が大事です。そして、すみやかに精神科医に相談して、適切な治療につなげることです。

 治療はそれぞれの病気によって異なりますが、基本的には薬物療法を柱に、周囲の環境調整など心理社会的な治療を組み合わせて行なっていきます。幻覚・妄想の症状には主に「抗精神病薬」と呼ばれる薬剤が用いられます。

 幻覚・妄想は適切な治療を受ければ、回復に向かう可能性が高い症状です。良好な予後を迎えるためには、発症からなるべく早い段階で病気の診断・治療に結び付けることが何よりも大切です。

2020/06/17

回復期リハビリテーション

医療法人 喬成会 花川病院 菅沼宏之 院長 




医療法人 喬成会 花川病院

菅沼宏之 院長
●北海道大学卒。日本リハビリテーション医学会指導医、認定臨床医、リハビリテーション科専門医、日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士
花川病院 石狩市花川南7条5丁目2
http://kyouseikai.jp/hanakawahp/





「回復期リハビリテーション」について教えてください。

 病気で倒れたり事故に遭ったりした直後は「急性期」といいます。ここで手術など必要な処置をし、容体が落ち着いたら、ここから最長6カ月の「回復期」に入ります。ここで治療後に低下した能力を回復するため、さまざまな専門職が共同して集中的なリハビリを実施するのが、回復期リハビリテーションです。

 かつては「手術後は安静第一」と考えられていましたが、世界的に研究が進む中で「手術直後でも起き上がって動いた方が回復は早い」ということが分かりました。在宅復帰を進めるには、回復期リハビリを少しでも早く集中的に行うことが非常に重要です。

 

リハビリはどのように進めますか


 回復期リハビリは、主に脳卒中や頭部外傷、交通事故による複雑骨折の患者さん、外科手術などの治療の安静により生じた廃用症候群を有する患者さんなどが対象になります。脳卒中は5〜6カ月間、骨折は2〜3カ月間など、疾患に応じて入院できる上限が決まっており、最大1日9単位(1単位20分、最大3時間)まで保険診療で認められています。

 座る、立つ、歩くといった基本動作の訓練から始め、食事や入浴、着替え、排泄など日常生活に必要な動作が自分でできるような訓練へと進めていきます。自宅・社会復帰を目的としますが、家庭環境や仕事内容など条件は人それぞれですので、患者さんの病状や要望、生活背景などに応じて個別に目標が設定され、一人ひとりに合わせたリハビリ計画を立てます。

 回復期リハビリには、医師を中心に多職種が密接に連携するチーム医療が不可欠です。施設の体制により異なりますが、医師、看護師、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)、医療ソーシャルワーカーらが連携して一つのチームとなり、入院中のリハビリだけでなく、退院した後も快適な暮らしができるようサポートしていきます。

 

ロボットによるリハビリが注目されていますが。

 

 近年、リハビリを支援するロボットが次々に登場して効率的なリハビリに貢献しています。例えば、トヨタ自動車と藤田医科大学(愛知県豊明市)とが共同開発した「下肢麻痺(まひ)リハビリ支援ロボット」。脳卒中で麻痺した脚にロボット脚を装着し、本体の可動式床の上を歩行練習するもので、転倒することなく、運動機能の回復を効率的に図れるのが特長です。患者さんの障害の程度に応じ、より長時間・多数歩の練習支援が可能になり、従来の歩行リハビリと比べ、回復速度の向上や歩行機能の改善が報告されています。

 人と人との触れ合いが重要視されるリハビリの現場で、すべての手技 ・ 施術をロボットに置き換えることはできませんが、人の足りない部分を補った上で、より安全性 ・ 効率性の高いリハビリを実現できるようなロボットの開発 ・ 登場が期待されます。

 

施設選びのポイントについて教えてください。

 

 リハビリは量と質の両面を充実させることが非常に重要です。まず量の面ですが、セラピスト(PT、OT、ST)の数が多く、患者さん1人あたりに十分なリハビリを提供できているか。また、リハビリは切れ目なく、継続して行うことが大切なので、休日も休まずリハビリが提供されているかがポイントです。次に質に関してですが、チーム医療が徹底されていることが第一。すべての職種が相互に他領域への理解を深めることで、全スタッフが患者さんの全体像を描けるようになるからです。リハビリの専門医が勤務していること、PT、OT、STがバランスよく配置されていることもポイントになります。

 ホームページや資料・パンフレットなどで、施設の特長や提供するリハビリの内容、理念や方針を比較してみるのもいいでしょう。気になる施設がある場合、一度リハビリの様子などを見学してみるのも一つの方法です。

2020/05/21

網膜の病気、加齢黄斑変性

大橋眼科 藤谷 顕雄 副院長



大橋眼科

藤谷 顕雄 副院長
●2005年北海道大学医学部卒業。時計台記念病院、手稲渓仁会病院、北海道大学病院などを経て、2019年4月より現職。日本眼科学会認定眼科専門医
大橋眼科 札幌市白石区本通6丁目北1-1
https://www.ohashi-eye.jp/





網膜の病気、加齢黄斑変性

 目をカメラに例えると、目の中にはカメラのフィルムに相当する網膜という薄い膜状の組織があり、そこで受けた映像の情報が脳へ伝えられます。この網膜の中心部を「黄斑」と呼びます。黄斑はものを見る中心となる部分であり、視力は黄斑の状態に大きく左右されます。この黄斑が加齢とともに病的な状態になり、ものがゆがんで見える、ぼやけて見える、見たいところが暗くなるといった症状とともに、視力低下をきたすのが加齢黄斑変性という病気です。原因は完全には解明されていませんが、老化現象が主因と考えられており、そのほか、喫煙、遺伝、紫外線なども病気に関与することが分かっています。

 日本では成人の中途失明原因で緑内障、糖尿病網膜症、網膜色素変性症に次ぐ第4位の疾患です。近年増加傾向にあり、患者数は70万人超にのぼり、50歳以上の人では約60〜100人に1人にみられると推定されています。

 

 

「滲出型」と「萎縮型」

 

 加齢黄斑変性には「滲出型」と「萎縮型」の2つのタイプがあります。滲出型は、網膜の外側にある「脈絡膜」に異常な血管(新生血管)が発生して網膜側に伸びてくるタイプです。新生血管は非常にもろいため、血液や水分が滲出して黄斑が機能障害を起こし、発症します。日本人の加齢黄斑変性の多くがこのタイプです。

一方、萎縮型は加齢とともに黄斑の組織が徐々に萎縮していくタイプで、日本人に少なく欧米人の発症が多いです。進行は緩やかですが、有効な治療法はまだ確立されていません。

 

 

光線力学療法と抗VEGF療法

 

 病気の進行度や重症度、病型によって治療法はいくつかあります。

 近年、治療の主流になっているのが「抗VEGF療法」という、新生血管の増殖や成長を抑える薬を、眼球の硝子体内に注射する方法です。導入期では、月1回の注射を3カ月間繰り返します。その後の維持期は、定期的に検査を行い、必要に応じて注射をします。

 他にも「光線力学療法(PDT)」があります。新生血管に集まる特殊な薬剤を注射し、そこに専用のレーザー光線を当てることにより、新生血管を閉塞させる方法です。単独治療での治療成績は、抗VEGF療法に劣りますが、病態に応じて抗VEGF療法に併用することがあります。

 

 

セルフチェックと定期的な検診を

 

 加齢黄斑変性は早期発見、早期治療が何より大事です。早期に発見し、適切な時期に治療を受けないと、進行してからでは視力の回復・改善が難しくなります。片方の目に見づらい、見えない部分があっても、両目で見ているともう片方の目でカバーしてしまうため、見えない部分がかなり広がるまで症状に気付かないことも多いです。

 ものがゆがんで見えていないかをセルフチェックするときに使われるのが「アムスラーチャート」と呼ばれる格子状の表です。カレンダーや将棋盤など格子状のものでも代用できます。片目ずつで見て、中心がゆがんで見えたり、線がぼやけて薄暗いところがあったり、部分的に欠けて見えたりしたら、すぐに眼科を受診してください。また、視覚障害の有病率が50歳代で増加することを考えれば、40歳を過ぎたら自覚症状がなくても定期的に眼科で検診を受けることをお勧めします。

2020/04/14

眼瞼下垂(がんけんかすい)〜加齢に伴うまぶたのたるみ〜

いしやま形成外科クリニック 石山 誠一郎 院長



医療法人 藻友会
いしやま形成外科クリニック
石山 誠一郎 院長
●日本形成外科学会認定形成外科専門医、北海道大学形成外科客員臨床講師
いしやま形成外科クリニック 札幌市中央区南15条西11丁目2-6
http://www.ishiyama-keisei.com/





眼瞼下垂(がんけんかすい)
〜加齢に伴うまぶたのたるみについて〜

 眼瞼下垂とは、まぶたが垂れ下がり、目が十分開きにくい状態のことです。生まれつきまぶたが下がっている先天性眼瞼下垂と、日を追うごとにだんだんとまぶたが下がってくるような後天性眼瞼下垂があります。

 後天性眼瞼下垂の多くは、まぶたの皮膚のたるみを伴い、まぶたの支持組織(瞼板というコラーゲンのかたまり)とまぶたを持ち上げる筋肉の接着部分(拳筋腱膜)が弱まり、筋肉の動きがストレートに伝わらなくなるために起こります。

 眼瞼下垂は、長時間のパソコン、スマートフォンの使用などで目を酷使する人や、コンタクトレンズの長期使用、アトピー性皮膚炎、花粉症、過剰なメイク・メイク落としなどで生じるまぶたのこすれ、白内障の手術後などさまざまな原因で発症します。言いかえれば、加齢によるまぶたの皮膚、腱膜、筋肉の変性による老化現象の一つと考えられますので、だれにでも起こりえる疾患といえます。

 

眼瞼下垂がもたらすさまざまな症状

 

 眼瞼下垂を放置すると、徐々に視野が狭くなり、視力が落ち、日常生活に不便が生じます。まぶたが下がってくると、知らず知らずのうちに、あごを上げて視界を得ようとする動きが起こります。さらに額の筋肉を過度に収縮させ、まゆ毛を上方へ引き上げることで目を開けるクセがついてくるため、額に深いしわが刻まれ、目とまゆ毛の距離が離れた、いわゆる老人様顔貌(老け顔)となっていきます。また、額の筋肉は頭頂部から後頭部、後頸部、肩へと続く筋肉と連動しているため、これらの筋肉の緊張が強くなることで、眼精疲労、頭痛、頸こり・肩こりといった症状が起こります。さらに、まぶたにある筋肉の中には、いくつかの神経受容体(周囲の変化を脳に伝えるセンサー)があり、腱膜が緩むことでこれらの神経刺激のバランスが崩れ、めまいや不眠、まぶたの痙攣などの随伴症状を起こすこともあります。

 

眼瞼下垂のセルフチェック

 

●まぶたが重く感じる。

●目が開けにくく、年齢とともに小さくなってきた。

●眠たそうな顔をしていると言われる。

●頭痛や肩こりがある。

●上まぶたのくぼみが出てきた。

●額に深いしわができた。

●夕方になると、目の奥や額に痛みを感じる。

 右記の内3項目以上に当てはまる方は、眼瞼下垂の疑いがあります。

 

眼瞼下垂の治療

 

 治療は、局所麻酔での手術が必要です。まぶたの皮膚のたるみやまぶたを挙げる筋肉の機能の程度・状態によって、垂れ下がった余分な皮膚と皮下組織などを切除する手術(眼瞼余剰皮膚切除)や、腱膜を本来あるべき正しい瞼板の位置に固定し直す手術(拳筋前転法)などを行います。術後はまぶたの腫れや、皮下出血などが生じるケースもあり、数日程度の入院治療をお勧めしています。

 眼瞼下垂の手術はまぶたの開けやすさや、十分な視野の獲得などの機能改善が目的となりますが、目の開き具合や二重まぶたの位置・左右対称性など、わずかな変化がその人の顔の印象を大きく変える場合があります。まぶたを開きすぎてしまうと、びっくりしたような顔(驚愕の表情)になったり、目つきがキツくなったりする方もいるため、手術に際しては機能面のみならず、整容面のバランスにも十分な配慮が必要となります。眼瞼下垂でお困りの方は、ぜひお近くの形成外科へご相談ください。

2020/03/19

気管支喘息(ぜんそく)

大道内科・呼吸器科クリニック 北田 順也 副院長



医療法人社団 大空会
大道内科・呼吸器科クリニック
北田 順也 副院長
●日本呼吸器学会認定呼吸器専門医、日本呼吸器内視鏡学会認定気管支鏡専門医
大道内科・呼吸器科クリニック 札幌市中央区北3条西4丁目 日本生命札幌ビル3階
https://www.ohmichi.or.jp/




増え続ける気管支喘息(ぜんそく)

 近年のアレルギー疾患の増加に示されるように、日本における気管支喘息患者数は推定では約800万人、厚生労働省の調査でも約450万人と年々増加しています。

 ガイドラインに準じた吸入ステロイド薬を中心とした治療の普及によって、気管支喘息をコントロール良好な状態に維持することが可能になってきたため、年間死亡者数は低下傾向にありますが、患者さんの中の5〜10%は重症喘息・難治性喘息であるといわれています。咳や呼吸困難のため生活の質(QOL)が低下している状態を強いられている方が、一定数いるという現状があります。



気管支喘息のタイプ分類(フェノタイプ)


 ここ数年、気管支喘息の病態解明と治療薬の進歩は目覚ましいものがあります。一口に気管支喘息といっても単一の病気ではなく、症状や経過は多彩であることから病態に対してのタイプ分類が行われています。以前より若い人におこる「アトピー型」、成人してから発症する「好酸球優位型」といった明らかに特徴の異なる喘息の病気のタイプや、「アスピリン喘息」「運動誘発性喘息」などの特殊なタイプが知られていました。

 こういったタイプ分類は「フェノタイプ」と呼ばれており、遺伝的素因と環境要因によってつくられた臨床像に基づいて分類を行うことにより、それぞれのタイプに対して最適な薬物治療を選択することができるようになってきました。

 近年では、臨床症状、発症年齢、経過、性別、重症度、呼吸機能、画像検査、治療反応性などの指標のほか、末梢血好酸球値、血清IgE値や血清ペリオスチン値、血清IL—4/IL—5/IL—13などの血液中の物質、呼気NO値など、さまざまな検査結果も含めた解析を行うことにより、新たな、より細分化したフェノタイプも提唱されています。

 

重症・難治性ぜんそくと生物学的製剤


 高容量の吸入ステロイド薬に加えて、そのほかの長期管理薬、または全身性ステロイド薬を必要としたり、そうした治療にもかかわらずコントロール不良の状態であったりする方は、重症喘息あるいは難治性喘息と呼ばれています。

 重症喘息や難治性喘息に対しては、昨今、新たな喘息治療薬が続々と登場しています。特に、抗IgE抗体、抗IL—5抗体、抗IL—5受容体α抗体、抗IL—4/IL—13受容体抗体といった生物学的製剤の登場が注目されています。

 生物学的製剤は、薬価が高額であることによる患者さんへの経済的負担や、長期使用による安全性の検討など、いくつかの課題が残されてはいますが、重症喘息や難治性喘息の患者さんにとって、重要な治療選択肢の一つとなり得ます。

 現在の治療で喘息のコントロールが得られず、症状や発作に悩まされている方は、一度お近くの「日本呼吸器学会認定呼吸器専門医」にご相談いただければ、新しい治療内容を提案できるかもしれません。お一人で辛い症状にお悩みにならずに、気軽に受診していただければと思います。

2020/02/20

認知症の早期診断・治療

さっぽろ香雪病院 本谷 方克 医師



医療法人 五風会
さっぽろ香雪病院
本谷 方克 医師
●平成17年旭川医科大学卒。KKR札幌医療センター、北海道大学病院、札幌田中病院、中江病院を経て平成28年より現職。
さっぽろ香雪病院 札幌市清田区真栄319番地
http://www.sapporo-kohsetsu.or.jp/




認知症の多様な症状

 高齢者人口の伸びに従い、増え続ける認知症。厚生労働省によると、患者数は2025年には約700万人に達する見込みで、そうなると65歳以上の高齢者のおよそ5人に1人が認知症という状況になります。

 認知症とは、簡潔に言えば「いったん正常に発達した知的機能が後天的に低下した状態」です。それによって社会生活に支障を来すようになると臨床的な問題になってくるわけです。認知症の症状は大きく2つに分けられます。

 1つはまさに認知機能の障害であり「中核症状」と呼ばれるも

のです。直前の出来事を忘れてしまうなどの「近時記憶障害」、日時や場所などが分からなくなる「見当識障害」、料理を作る・買い物をするなど、順を追って物事を実行することができなくなる「遂行機能障害」などが挙げられます。

 これらの中核症状に加えて生じてくるのが「周辺症状(BPSD)です。うつ病と同様の状態になったり、不安感や焦燥感を生じたり、幻視・幻聴が現れたり、と非常に多彩な症状があります。特に問題になるのは強い被害妄想を生じるケースと、性格変化によって暴言や暴力などが現れるケースです。中核症状よりもむしろこれらの周辺症状が問題となって精神科入院となる例を日常的に経験します。

 

早期診断・治療の重要性


 認知症の分類の中で最も多いのはアルツハイマー型認知症です。次いで血管性認知症、レビー小体型認知症と続きます。それぞれの病型によって治療方法や進行の形式が変わってくることがあり、早期に発見し早期に病型分類を明らかにすることが必要です。

 しかし現在のところ、認知症の根本的な治療法・治療薬は発見されていません。投薬や機能訓練などにより進行を遅らせるのが精一杯というところです。治療の中心は薬物療法です。例えばアルツハイマー型認知症では治療薬によって進行をある程度緩やかにできる可能性があります。このほか抑うつや興奮など、周辺症状に応じた適切な治療薬を選択します。病状の進行に伴い周辺症状が変化するケースも多く、それに応じて薬の使い方も変わってきます。絶対的な正解は無いため、ほかの精神疾患の治療薬を用いるなど薬物療法は個別的で多様です。

 デイケア、デイサービスなどを上手に利用し、残された元気な機能をなるべく維持することも薬物療法とともに必要です。家族や介護者がどのように患者さんと接するか、また、生活環境を整えるかがとても大切です。

 

認知症になる前に「備え」を


 金融機関が「この人は認知症ではないか」と疑った場合、口座が凍結されることがあるのを知っていますか?これによって認知症患者さん本人が銀行にお金を持っていても、患者さんの入院費はそこから支払えない、といった事態が起こります。

 こうした困りごとを避けるために、元気なうちに老後の財産管理や継承方法などを考えておくことも認知症対策の一つと言えるでしょう。いざ認知症と診断されてから慌てて成年後見制度を利用する方が多いのですが後見人の設定には手間と時間がかかりますし、また家族と成年後見人の間でトラブルを生じるケースもあります。遺言書作成や家族信託の活用なども検討し、早めに十分な備えをしておくのが良さそうです。

2020/01/14

うつ病の原因と治療

岡本病院 山中 啓義 副院長



医療法人社団 正心会 岡本病院
山中 啓義 副院長
●日本医師会認定産業医、日本精神神経学会認定、精神科専門医
●岡本病院 札幌市中央区北7条西26丁目3-1
https://www.ohashi-eye.jp/





近年[現代型うつ病][新型うつ病][軽症うつ病][児童・思春期うつ病]といったさまざまなタイプの[うつ病]が注目されています。
ここではうつ病の基本的な特徴を紹介します。


うつ病の患者数

 日本における最近の疫学調査では、うつ病を含む気分障害患者は約112万人とされます。日本では有病者受診率が低く、実際はもっと多いとの報告もあります。12カ月有病率(過去12カ月にうつ病を経験した人の割合)は2.7%で、生涯有病率(生涯の中でうつ病を経験した人の割合)は5.7%と推定されています。これは、生涯にうつ病を経験する日本人は17人に1人いることを意味し、うつ病が決してまれな病気ではなく、誰でもかかる可能性があることを示しています。わが国のうつ病患者は女性にやや多く、中高年に多いことが特徴です。

 

「憂うつ」と「うつ病」の違い


 人はだれでも不幸なことがあったり、失敗したり、嫌なことがあったりすると悲しみ、ふさぎ込むようになります。その時の気分はきっと「憂うつ」に違いないでしょう。大抵の「憂うつ」は、時間が経つと気にならなくなり、別の良いことがあると気持ちが晴れ、気分転換に好きなこともある程度は楽しめるようになります。これらの範疇であれば「憂うつ」も自然な感情の動きととらえられます。

 しかし、うつ病になると、環境が好転したり、周囲の援助があったりしても、気分の晴れない状態などが2週間以上にわたって続きます。よく見られる心の症状としては、「気力が出ず、何事も億劫に感じる」「午前中の調子が悪く午後から少し楽に感じる」「ぐっすり眠れない」などが挙げられます。

 

うつ病の原因


 うつ病に対して「心の弱い人がかかる病気」「心の持ちようで克服できる病気」と誤解している人は少なくありません。しかし、決してそうではなく、うつ病は「脳の病気」であり、「脳内の化学伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンなどのアンバランスが原因」であることが判明しています。

 また、うつ病の発症にはストレスが関わっていることが多いですが、「どのようなこと」を「どの程度」にストレスとして感じているかは、非常に個人差が大きいことを留意する必要があります。

 

うつ病の治療


 適切な治療を継続すれば、うつ病は改善するケースが多いです。治療として第一は十分な精神的休息を取ること。第二に、ストレスと感じている事柄から遠ざかるなど環境調整を行うこと。第三に、専門医による薬物治療を開始することです。現在、薬物治療はSSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬)、NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)が第一選択薬となっています。また、非薬物療法として支持的精神療法、認知行動療法、作業療法などの有効性も確立されています。

 これらの治療により、次第に精神的苦痛は軽減されますが、症状は一進一退することもあります。一時的に悪化することがあっても悲観せず、治療を継続することが大切です。

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