2025/02/13

失明の恐れも〜網膜静脈閉塞症〜

<突然の視野障害や視力低下>


 眼球をカメラに例えると網膜はフィルムにあたり、光や色を感じるのに重要な膜状の組織です。「網膜静脈閉塞症」は網膜の静脈の血流が詰まる(閉塞)ことで発症します。静脈の枝が詰まった場合は網膜静脈分枝閉塞症、眼球の奥にある神経や血管の出口である視神経乳頭部で静脈の根元が詰まった場合は網膜中心静脈閉塞症といい、閉塞の範囲や程度によって病状が異なります。

 網膜から血液を排出する静脈が詰まると、血液が血管からあふれ出て網膜内に広がって眼底出血となったり、網膜内で浮腫(むくみ)を起こしたりします。特に網膜の中央にある黄斑に浮腫が起こると、ものがゆがんで見えたり、視力が低下して見えにくくなったりします。また、閉塞が強いと眼内に新生血管が発生し、急激な視力低下の原因となる「硝子体出血」や、眼圧が急激に上昇し失明の恐れがある「血管新生緑内障」発症の原因となります。

 多くの場合、高血圧などによる動脈硬化を背景として、網膜静脈の中で血流が滞って血栓ができることが原因とされます。頻度は低いものの、血管の炎症が原因となって若年者にも発症することがあります。無症状の方を含めると40歳以上の2%程度にみられ、決して珍しい病気ではありません。


<浮腫抑える眼内注射が有効>


 治療は、視機能に直結する黄斑浮腫を改善することが最優先となります。最も効果的なのは、「抗血管内皮増殖因子(VEGF)抗体」という薬の眼内注射です。網膜の血流が閉塞するとVEGFという物質が発生し、黄斑浮腫等の原因となりますが、その働きを抑えます。

 治療効果に優れ比較的短期間で浮腫は改善しますが、効果が不十分な場合もあります。また、注射の効果は徐々に消失するため、再発するケースも多く、繰り返しの治療が必要になることがあり、高価な薬剤であることも課題です。

 広範囲で血流が詰まった場合、硝子体出血や血管新生緑内障を予防するため、血流の途絶えた網膜を焼くレーザー治療を行うことがあります。また、ステロイド剤の眼内注射を補助的に使用したり、眼内の状況によっては硝子体手術を行うこともあります。

 黄斑浮腫がおさまると視機能の改善が期待できますが、網膜の障害が強いと改善は難しくなります。ゆがみや視力低下などの異常を感じたら放置せず、すぐに眼科を受診してください。普段は両眼でものを見ることが多いため、片眼ずつで見え方を確認すると病気の発症、悪化に早く気付けます。

 治療が長期にわたる病気です。合併症や再発を防ぐため、自覚症状が落ち着いていても定期受診をお勧めします。





大橋眼科
藤谷 顕雄 副院長
2005年北海道大学医学部卒業。時計台記念病院、手稲渓仁会病院、北海道大学病院などを経て、2019年4月より現職。日本眼科学会認定眼科専門医
大橋眼科 北海道札幌市白石区本通6丁目北1-1
https://www.ohashi-eye.jp/

人気の投稿

このブログを検索