2023/12/22

食べる力を取り戻す「摂食嚥下リハビリ」

<脳卒中の後遺症、摂食嚥下障害>


 食べ物をそしゃくして、ごくんとのみ込む──普段は自然にできている行為が、脳卒中(脳梗塞(こうそく)、脳出血、くも膜下出血)などの後遺症でうまくいかなくなるのが「摂食嚥下(えんげ)障害」です。この障害が引き起こす「誤嚥性肺炎」は、日本人の死因の上位に入ります。
 「食べる」「飲み込む」という一見単純そうに見える行為ですが、じつは複雑な行為を繰り返しています。まず食べ物があることを確認し、それを口の中に入れ、歯でかみ砕いて飲み込みやすいサイズの塊にします。そして、舌の動きによって塊をのどの方に送り、のどから食道へ、最後に食道から胃に送り込みます。飲み込む際には気道の入り口がふさがり、食べ物や水が誤って気道に入るのを防いでいます。こうした一連の動作のどこかに不具合が生じた状態が摂食嚥下障害です。
 脳卒中によって、摂食嚥下に関連する知覚の障害、運動の障害が生じると、うまく食べられない・かめない、飲み込めない、むせるなどの症状が認められます。手足のまひなど他の後遺症と同じく、できるだけ早期からリハビリを開始し、継続することで、症状の改善が望めます。


<さまざまな職種の専門家が連携>



 脳卒中で生じてしまった摂食嚥下障害を発作前の完全な状態に戻すことは難しい事が多いです。しかし、症状に合ったさまざまなリハビリを行うことによって、摂食嚥下障害の劇的な改善もしばしばみられます。リハビリには、口や舌を動かす「嚥下体操」、かむために必要な筋肉を鍛える「そしゃく訓練」、訓練機器を使って咽頭の筋肉などを刺激する「電気刺激療法」、食べ物を使った「摂食訓練(直接訓練)などがあります。それに加え、食事の形態(口腔やのどの状態に合ったやわらかい食事から始め、食べることで筋肉が付けば、硬い食事に変えていくなど)や日常生活を工夫すること、口腔ケアを徹底することなどによって、家庭で安全に経口摂取を続けていくことも十分に可能となります。
 患者さんの病状や要望、生活背景などに応じて個別に目標が設定され、一人ひとりに合わせたリハビリ計画を立てます。医師をはじめ、摂食嚥下のリハビリを担う専門職・言語聴覚士(ST)や体のリハビリを行う理学療法士や作業療法士、看護師、管理栄養士らが連携して一つのチームとなり、口から安全に食事を摂取するというゴールに向けて患者さん、ご家族とともに前進していきます。患者さん一人ひとりにとって適切なリハビリを選択し、それを入院から在宅まで切れ目なく、地道に続けていくことが何よりも重要です。
 食べることは生きていくためだけでなく、生きる楽しみとして欠かせません。今は口から食べることが難しい方も、リハビリによって再び食べる喜びを味わえるケースも少なくないです。あきらめずに専門病院、専門医に相談してください。





医療法人 喬成会 花川病院
普久原 朝規 医師
日本リハビリテーション医学会認定リハビリテーション科専門医・日本神経学会認定神経内科専門医
花川病院 石狩市花川南7条5丁目2番地
http://kyouseikai.jp/hanakawahp/

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