<高齢者の約1割が悩む便失禁>
排便の抑制がきかず、無意識のうちに、または、意思に反して便が排せつされることが度々起こる状態を「便失禁」といいます。知らず知らずのうちに下着を汚してしまうような便失禁や、排便を我慢しようと意識しているにもかかわらず、トイレに間に合わず漏らしてしまう便失禁があります。患者さんは高齢者に多く、日本では65歳以上の男性の8・7%、女性の6・6%が該当するという調査結果があり、高齢者全体の約1割に及びます。
珍しい症状ではありません。原因はさまざまで、過去に受けた直腸肛門手術や脊髄損傷などの外傷、加齢による肛門括約筋の筋力低下、糖尿病などの疾患による神経障害、女性であれば出産時の会陰切開や吸引分娩(ぶんべん)などによる括約筋の挫傷などが挙げられます。また、高齢者や学童に多くみられるのは、便秘を繰り返し、直腸内に便が詰まってしまうことが原因で、軟便や液状便が漏れ出す便失禁です。
まずは原因を知ることが、治療への第一歩です。検査や診察で原因をきちんと見極めた上で、最も効果的と思われる治療法を選択します。
<負担少ない電気療法に注目>
治療は原因によりさまざまですが、通常はまず食事や規則正しい排便習慣の指導が行われます。便が軟らかいと漏れやすいので、便の硬さを調節する薬を使う場合もあります。また、自宅で行う毎日10分程度の括約筋を強めるトレーニング(骨盤底筋体操)や、外来で医師と一緒に行う、肛門の中にセンサーを入れて中の圧を見ながら括約筋をトレーニングする「フィードバック療法」も効果的です。
自分では訓練できない内括約筋を、低周波の電気刺激で鍛える治療法もあります。「低周波電気刺激療法」と呼ばれるもので、電気刺激により肛門管組織の血流量を増やし、括約筋の筋力をアップさせます。1回の治療時間は5分ほどですが、繰り返し行うことで効果が出ます。また、腰のあたりに電気刺激装置を埋め込み、排便をコントロールする神経である仙骨神経を刺激し、便失禁を改善する「仙骨神経刺激療法(SNM)」という画期的な治療法も2014年から保険適応となっています。治療効果が高く体への負担も少ない治療として注目されています。直腸肛門手術や会陰切開などが原因で括約筋に断裂がある場合には、入院して肛門括約筋を手術で縫合する「括約筋形成術」を行うのが一般的です。
便失禁は治療すれば、治る可能性が高い病気です。悩みを一人で抱え込まず、大腸肛門病専門医にご相談ください
医療法人 藻友会
札幌いしやま病院札幌いしやまクリニック
石山 元太郎 理事長
●日本外科学会認定外科専門医。日本大腸肛門病学会認定大腸肛門病専門医。
●札幌いしやま病院 札幌市中央区南15条西10丁目4-1
●札幌いしやまクリニック 札幌市中央区南15条西11丁目2-1
http://ishiyama.or.jp/