2022/08/19

痔は成人日本人の3人に一人がかかっている病気


 



札幌いしやま病院
小山 良太医師
●2010年札幌医科大学医学部卒業。北海道がんセンター、北海道大学消化器外科Iなどを経て、2021年8月より現職。日本外科学会認定外科専門医・医学博士。
札幌いしやま病院 札幌市 中央区 南15条 西10丁目 4-1
http://ishiyama.or.jp




肛門疾患で最も多い「痔核」

 肛門科の患者さんは、肛門付近の痛みや出血、かゆみなどの症状を訴えて受診します。ほとんどが痔核(いぼ痔)と裂肛(切れ痔)、痔ろうで占められ、中でも患者さんが最も多いのが痔核です。

 肛門周辺の粘膜の下には、血管が集まって肛門を閉じる働きをするクッションのような部分(肛門クッション)があり、ちょうど水道の蛇口に付いているゴム栓のような役割を果たしています。排便時や重い物を持った時に強くいきんだり、運転時など長時間座ったままの姿勢でいたりするなど、肛門に負担がかかることが度重なると、徐々に肛門クッションが腫れて、本来あるべき位置からずれ落ちた状態になります。これが痔核です。 

 肛門の穴から約2センチ奥には、肛門上皮と直腸粘膜の境目となる「歯状(しじょう)線」があり、歯状線より上の部分にできたものを「内痔核」、下の肛門上皮にできたものを「外痔核」と呼びます。内痔核は排便時などに出血しますが、痛みはほとんどありません。ただ、大きくなると垂れ下がり、肛門の外に出てしまう「脱肛」を起こし痛みを感じることがあります。外痔核は痛みに敏感な部位に存在し、特に強いいきみなど肛門に急激に負担がかかった時に血栓(“血豆”)を形成し、痛みを伴って腫れることがあります。

 

注射と切除、併用療法も

 

 痔核の治療法は症状に応じてさまざまです。外痔核は塗り薬や飲み薬で症状を抑え、排便・生活習慣の見直すことで改善が見込めるケースがほとんどです。特に痛みが強い場合は簡単な手術を行うこともあります。一方、内痔核は重症化すると脱肛しやすくなり、保存療法では完治しません。切らずに治す注射療法(ALTA注射療法)や外科手術(当院では肛門形成術)などが検討されます。

 ALTA注射療法は、内痔核に直接、薬を注射して痔核を縮小させる方法で、メスを入れないため治療後の痛み、出血が少なく、有用な方法です。肛門形成術は、ずれ落ちた肛門クッションを括約筋から剥離し、本来の位置に戻して括約筋に固定するという方法です。痔核を切除する一般的な術式と比較して、術後の痛みや出血が少なく、入院期間を短縮できるというメリットがあります。また、狭窄などの長期合併症はほとんどなく、肛門本来の機能を温存するという観点からも非常に有効な術式です。病状によっては、ALTA注射療法と肛門形成術を組み合わせる併用療法を行い、良好な成績を得ています。どの方法がベストかは、脱出の有無、程度、脱出時の形態などを考慮し総合的に判断します。

 

排便時に異変、早期受診を

 

 痔の一番の予防法は、トイレにいる時間を短くすること。いきみすぎず、長く踏ん張らないことが大事です。また、便秘や下痢、長時間の座位、体の冷え、大量飲酒、疲労、ストレス、過度の香辛料を避けるなど、おしりに負担をかけない生活習慣を心掛けてください。

 性別や年齢を問わず、痔で悩む人は多いです。気恥ずかしさから、しっかりと処置をしない傾向がありますが、長く放置するほど不快さや痛みは増し、手術の必要性も高まります。また、おしりからの出血が痔によるものだと思い、放置していたら大腸がんであったケースも少なくありません。大切なのは、自分で判断しないこと。おかしいなと思ったら、迷わず肛門科を受診しましょう。

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