2023/06/20

「見えない障害」、高次脳機能障害とは?

<50万人以上が悩む認知機能の障害>

 高次脳機能障害は、交通事故のけが(頭部外傷など)や脳卒中、脳腫瘍などの病気で、脳の一部が傷ついたことで起こる認知機能の障害です。子どもから大人まで、誰にでも起こり得る脳の障害で、全国に50万人以上の患者さんがいると推計されています。症状は、①「忘れる」「覚えられない」などの記憶障害、②「ぼんやりしている」「作業を長く続けられない」などの注意障害、③「計画を立て物事を実行できない」などの遂行機能障害、④「感情を抑えられない」などの社会的行動障害──などがあり、脳のどこがダメージを受けるかで表れる症状が異なります。
 先天的な障害と異なり、見た目に分かりにくく「見えない障害」ともいわれています。また、疲れやすい、こだわりが強い、意欲の低下などの症状もあり、元の性格がより強く現れたり、反対に性格が変わってしまったりする方もいる中で、周囲だけでなく本人が自覚しにくいことも、この障害の特徴です。高次脳機能障害の患者さんは、社会復帰に困難を伴うことが多いです。若い世代への理解・支援は特に難しく、学校や職場に復帰できても怠けていると判断され、休みがちになったり、退職を繰り返したりするケースも少なくありません。

<リハビリ、周囲の理解と支援が大切>

 高次脳機能障害の症状は認知症の症状と似ていますが、認知症とは異なり専門的なリハビリで一定の回復が望めます。リハビリの基本的な方針は、①認知障害自体の改善 ②代償手段の獲得 ③障害の認識を高める ④環境調整・家族指導 の4つです。発症直後は作業療法士、言語聴覚士、臨床心理士などによる医学的リハビリプログラム が開始され、徐々に生活訓練プログラム、職能訓練プログラムへと、医療から福祉への連続した訓練と支援が重要です。時間はかかりますが、根気よく続けることで成果は上がります。また、家族や職場など周囲の理解と息の長い支援も非常に大切です。患者さん自身が障害に気が付かないことが多いため、周囲の皆さんが症状を理解し対応方法を考えることも必要です。生活する地域の中で、年単位で支えていく体制が欠かせません。
 高次脳機能障害はまだまだ知名度が低いです。一人でも多くの方にこの障害について正しい知識と理解を持っていただき、高次脳機能障害の可能性がある人を取りこぼさずに、より多くの人が適切な診断や治療、リハビリを受けられるようになる社会・仕組みづくりに取り組んでいきたいと思っています。





医療法人喬成会
花川病院
生駒 一憲副 理事長
奈良県立医科大学卒業。
日本リハビリテーション医学会認定リハビリテーション科専門医。
北海道大学名誉教授
医療法人喬成会花川病院
 石狩市花川南7条5丁目2番地
http://kyouseikai.jp/hanakawahp/

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