鈴木 志麻子 医師
●精神保健指定医・日本精神神経学会精神科専門医・医学博士
●医療法人社団正心会 岡本病院
●医療法人社団正心会 岡本病院
札幌市中央区北7条西26丁目3番1号
不眠・睡眠障害、原因を探り治療
なかなか寝付けない、夜中や早朝に目が覚める、ぐっすり眠った感じを得られない…といった睡眠に関する悩みを抱える人は成人の2〜3割に上ります。高齢になるほど増えますが、夜遅くまでパソコンやスマホを操作する若い世代でも目立ちます。不眠の主な原因としては、精神的なストレスの存在、うつ病や睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群など何らかの病気、薬の副作用の不眠の他、若い方の場合には人間に本来備わっている体内時計を無視した生活リズム、高齢者の場合には日中の活動性の低下や、そもそも加齢による睡眠時間の生理的な減少なども関係します。「とりあえず薬を」の前に、これらを見落とさないことが重要です。
睡眠薬の分類とその特徴、新薬も登場
不眠の治療に病院で使用される睡眠薬は「ベンゾジアゼピン受容体作動薬/非ベンゾジアゼピン受容体作動薬(以下、ベンゾ系/非ベンゾ系)」「メラトニン受容体作動薬」「オレキシン受容体拮抗薬」に大別されます。
ベンゾ系/非ベンゾ系睡眠薬は、不眠治療、精神疾患の治療において本邦では広く使われており、鎮静作用や抗不安作用などにより脳の働きを休ませて眠りへ導きます。ただし、健忘やふらつき、認知機能への影響などの副作用、長期使用に伴う依存性などの側面もありますので、一時的な使用にとどめる、あるいは慎重に使用する必要(特に高齢者)があります。なお、睡眠薬は急にやめると一時的に不眠が悪化することが多く(反跳性不眠)、その場合は少しずつ減量してからやめる工夫が必要です。
ほかの2剤は比較的新しい薬で、メラトニン受容体作動薬は眠りをもたらすホルモンのメラトニンと同じような働きをし、体内時計に働きかけ、睡眠・覚醒リズムを調節して眠りへ導きます。オレキシン受容体拮抗薬は脳の覚醒を維持する神経伝達物質の働きを抑えることで眠りに導きます。これらの睡眠薬は副作用や依存性が少ないため、高齢者にも使いやすい特徴があります。
睡眠薬は治療や生活の助けになりますが、いずれはやめることを意識することも大切です。生活習慣・リズムを見直す、睡眠関連の情報を集め実践する、医師とよく相談して副作用の少ないタイプに切り替える・量を減らすなど、できることから取り組んでみましょう。なお、「睡眠薬は怖い」と敬遠される方もおりますが、正確な知識を得て、必要な時に必要な量を使用するのであれば怖いものではないことも、ご理解いただきたいと思います。
健康のための睡眠習慣を
最後に、質の高い睡眠のための方策をいくつか紹介します。▽毎日決まった時刻に起床▽朝日を浴びて体内時計をリセットする▽日中の適度な運動習慣▽就寝前の飲酒、喫煙、夕方以降のカフェイン摂取を控える▽寝る90分前にぬるめの入浴▽ベッドの上でだらだらとスマホを操作しない、などを心掛けましょう
不眠の背後にうつ病や統合失調症などの病気が隠れている場合もあります。長引く不眠とともにメンタルの不調がある場合には、早めに精神科、心療内科などの専門医を受診することをお勧めします。