2021/02/20

うつ病の行動活性化療法

 

岡本病院 鈴木 志麻子 医師




医療法人社団正心会

岡本病院

鈴木 志麻子 医師
●精神保健指定医・日本精神神経学会精神科専門医・医学博士
医療法人社団正心会 岡本病院 札幌市中央区北7条西26丁目3番1号

http://www.okamoto-hp.com/





[うつ病の行動活性化療法]どのような治療法ですか

 うつ病に効果がある心理療法の一つです。うつ病では、悲観的な気分と「きっとうまくいかない」「やる気が起きないからできない」等の囚(とら)われ(認知のゆがみ)から行動を起こせず、その結果「今日も何もできなかった」「自分はダメだ」と更に気分が落ち込む悪循環に陥りがちです。 

 そこから抜け出すために、この治療法では「気分」や「認知」に働きかけるのではなく、 「行動パターン」を変えることで気分を改善することに取り組みます。日本では、カウンセリングやデイケアなどで実施されている場合が多いようです。

 

治療の流れを教えてください

 

 「活動(行動)記録表」を用いて、一時間区切りで「やったこと」と「その時の気分(点数化)」を毎晩記入していきます。一週間分を振り返り、気分の良くなる行動と悪くなる行動を洗い出します。自分の行動パターンを眺めると、活動と気分の色々な関係に気づくでしょう。意外なことが気分転換になる、やってみたら案外楽しかった、○時までに寝た方が調子がいい・・・等。その上で、気分が良くなる行動が多くなるように翌週のスケジュールを組み立て、それにチャレンジするサイクルを繰り返していきます。

 さらに「どんな行動が気分を良くするか」を試してみて(行動実験)、行動のレパートリーを増やしていきます。以前やれていた活動をリストアップし、簡単なことから再び取り組んでみるのも良いでしょう。難易度が高い活動の場合は、小さなステップに分割するのがコツです。例えば「服を買いに出かける」という活動は〈外出に必要な持ち物をそろえる〉〈バスの時刻を調べておく〉〈外出着に着替える〉〈玄関から出る〉…など、出来るだけ細かく分けることで、取り組みやすくなります。こうして「意外と悪くなかった、出来た」という実感を重ねることで、気分を改善していきます。

 

気をつける点はありますか

 

 「調子の良い時は行動する、悪い時は行動しない」というパターンには要注意です。そうした「症状中心」の生活を続けていると、症状に振り回される感覚が強まり、自信もなくなっていきます。気分が悪い時は悪いなりに、まずは小さなことからやってみることが大切です。

 また、この治療の肝心なところは、単に活動量を増やすことではありません。自分の本来の目的や人生で大切にしたい事(例:復職する、家族が仲良く過ごす、趣味に打ち込める等)に近づく行動を増やすことにあります。ですがそれに伴う苦痛のために、やるべきことを避けたり別の無駄な活動に没頭したりといった、「回避パターン」に陥ることがあります。その問題の克服には、「自分が大切にしている価値は何か」を改めて見つめ直し、行動の軸にすえる作業が必要となります。

 

誰でも取り組めますか

 

 急性期で病状が重い時は避けるべきです。また、周囲の人がやみくもに楽しいことをやらせて効果があるものでもありません。しかし、回復期に入った方や軽度の抑うつ状態が長引いている方、鬱々(うつうつ)とした毎日を変えたいと思う方では、取り組んでみても良いかもしれません。

 この治療の情報はインターネット上にもいくつかありますし、自分で取り組むための本も出版されています。治療中の方、あるいは自分ではうまく出来ない場合には、主治医や専門家に相談することをお勧めします。

 

参考文献:「うつ病の行動活性化療法」岡本泰昌、医学のあゆみ、242巻7号 p505-509 ’2012年、「行動活性化療法」鈴木伸一、臨床精神医学41巻8号、p1001-1005 ’2012年

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