2020/07/13

幻覚や妄想の症状が生じる精神疾患

福住メンタルクリニック 宇佐見 誠 院長


医療法人 五風会 
福住メンタルクリニック
宇佐見 誠 院長
●1994年旭川医科大学医学部卒業。日本精神神経学会認定精神科専門医。精神保健指定医
福住メンタルクリニック 札幌市豊平区月寒東1条15丁目1-20メープル福住ビル3階
http://www.fukuzumimc.jp/




「幻覚」や「妄想」が生じる精神疾患

 幻覚や妄想を引き起こす原因として、いくつかの精神科の病気が考えられます。今回は、①年代 ②幻覚や妄想以外の症状 ③幻覚や妄想の内容から代表的な精神疾患を4つ紹介します。

 10代後半から30代といった若い世代に発症しやすいのが「統合失調症」です。思考や感情などをうまく制御できなくなり、幻覚や妄想、認知機能低下などが表れる病気です。30代から50代までに多くみられるのが「うつ病(などの感情障害)」、60代以降の高齢者がかかりやすいのが「認知症」と「せん妄」です。せん妄とは、病気などで体調が悪化したり、手術後の薬が体調に合わなかったりした際に発症しやすくなる軽度のパニック状態(意識の混濁)のことです。


幻覚・妄想以外の症状と幻覚・妄想の内容

 
 統合失調症の場合、会話や行動に統一性がないように見えたり、感情が乏しく、無気力になったりという症状もみられます。周りに誰もいないのに命令する声や悪口が聞こえたりする幻聴、「ずっと監視されている」「命を狙われている」などの妄想が特徴です。

 うつ病は、気持ちがふさぎ込む、何にも興味や関心を持てない、身体的な不調(食欲がない、眠れない、疲れやすい)などの症状もあります。幻覚よりは妄想が多く、自分が行ったことを罪だと考えたり、重い病気にかかったと思い込んだり、お金に関して必要以上に心配事を抱いたりするのが特徴です。

 認知症の場合、記憶障害やここがどこか、今いつなのか分からない見当識障害、人格・性格の変化も代表的な症状です。認知症の妄想として頻繁に表れるのが、物盗られ妄想で、自分の持ち物を失くし、見つけられず、誰かが盗んだのではと疑ったり騒いだりするものです。

 せん妄は、もうろうとして話のつじつまが合わなかったり、意識がくもってぼんやりしたり、一瞬「寝ぼけているの?」と思えるような症状が表れます。幻覚・妄想は実際にはいない虫などの小動物や人が見える幻視が特徴ですが、症状は一時的なものであることが多く、身体の回復に伴って改善し、大半は症状があった時のことを覚えていません。

 

幻覚・妄想が起こった時に心掛けたい対応

 
 幻覚や妄想の症状がある本人に対して、ご家族はどう対応すればいいのでしょうか。幻覚・妄想があるようだと周囲が認識した時、「何も見えない」「そんなことはありえない」などと頭ごなしに否定すると、本人が混乱して状態を悪化させる可能性があります。まずは否定も肯定もせず、本人に起きていることを正確に把握するためにも、本人の訴えを中立的に聞くという姿勢が大事です。そして、すみやかに精神科医に相談して、適切な治療につなげることです。

 治療はそれぞれの病気によって異なりますが、基本的には薬物療法を柱に、周囲の環境調整など心理社会的な治療を組み合わせて行なっていきます。幻覚・妄想の症状には主に「抗精神病薬」と呼ばれる薬剤が用いられます。

 幻覚・妄想は適切な治療を受ければ、回復に向かう可能性が高い症状です。良好な予後を迎えるためには、発症からなるべく早い段階で病気の診断・治療に結び付けることが何よりも大切です。

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