2020/02/20

認知症の早期診断・治療

さっぽろ香雪病院 本谷 方克 医師



医療法人 五風会
さっぽろ香雪病院
本谷 方克 医師
●平成17年旭川医科大学卒。KKR札幌医療センター、北海道大学病院、札幌田中病院、中江病院を経て平成28年より現職。
さっぽろ香雪病院 札幌市清田区真栄319番地
http://www.sapporo-kohsetsu.or.jp/




認知症の多様な症状

 高齢者人口の伸びに従い、増え続ける認知症。厚生労働省によると、患者数は2025年には約700万人に達する見込みで、そうなると65歳以上の高齢者のおよそ5人に1人が認知症という状況になります。

 認知症とは、簡潔に言えば「いったん正常に発達した知的機能が後天的に低下した状態」です。それによって社会生活に支障を来すようになると臨床的な問題になってくるわけです。認知症の症状は大きく2つに分けられます。

 1つはまさに認知機能の障害であり「中核症状」と呼ばれるも

のです。直前の出来事を忘れてしまうなどの「近時記憶障害」、日時や場所などが分からなくなる「見当識障害」、料理を作る・買い物をするなど、順を追って物事を実行することができなくなる「遂行機能障害」などが挙げられます。

 これらの中核症状に加えて生じてくるのが「周辺症状(BPSD)です。うつ病と同様の状態になったり、不安感や焦燥感を生じたり、幻視・幻聴が現れたり、と非常に多彩な症状があります。特に問題になるのは強い被害妄想を生じるケースと、性格変化によって暴言や暴力などが現れるケースです。中核症状よりもむしろこれらの周辺症状が問題となって精神科入院となる例を日常的に経験します。

 

早期診断・治療の重要性


 認知症の分類の中で最も多いのはアルツハイマー型認知症です。次いで血管性認知症、レビー小体型認知症と続きます。それぞれの病型によって治療方法や進行の形式が変わってくることがあり、早期に発見し早期に病型分類を明らかにすることが必要です。

 しかし現在のところ、認知症の根本的な治療法・治療薬は発見されていません。投薬や機能訓練などにより進行を遅らせるのが精一杯というところです。治療の中心は薬物療法です。例えばアルツハイマー型認知症では治療薬によって進行をある程度緩やかにできる可能性があります。このほか抑うつや興奮など、周辺症状に応じた適切な治療薬を選択します。病状の進行に伴い周辺症状が変化するケースも多く、それに応じて薬の使い方も変わってきます。絶対的な正解は無いため、ほかの精神疾患の治療薬を用いるなど薬物療法は個別的で多様です。

 デイケア、デイサービスなどを上手に利用し、残された元気な機能をなるべく維持することも薬物療法とともに必要です。家族や介護者がどのように患者さんと接するか、また、生活環境を整えるかがとても大切です。

 

認知症になる前に「備え」を


 金融機関が「この人は認知症ではないか」と疑った場合、口座が凍結されることがあるのを知っていますか?これによって認知症患者さん本人が銀行にお金を持っていても、患者さんの入院費はそこから支払えない、といった事態が起こります。

 こうした困りごとを避けるために、元気なうちに老後の財産管理や継承方法などを考えておくことも認知症対策の一つと言えるでしょう。いざ認知症と診断されてから慌てて成年後見制度を利用する方が多いのですが後見人の設定には手間と時間がかかりますし、また家族と成年後見人の間でトラブルを生じるケースもあります。遺言書作成や家族信託の活用なども検討し、早めに十分な備えをしておくのが良さそうです。

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