2019/12/19

飛蚊症・網膜裂孔・網膜剥離

大橋眼科 藤谷 顕雄 副院長


大橋眼科
藤谷 顕雄 副院長
●2005年北海道大学医学部卒業。岩見沢市立総合病院、時計台記念病院、手稲渓仁会病院、北海道大学病院などを経て、2019年4月より現職。日本眼科学会認定眼科専門医。
大橋眼科 札幌市白石区本通6丁目北1-1




飛蚊症(ひぶんしょう)について教えてください

 視界の中で、黒や白っぽい糸くず状のものや、虫のような黒い影が飛んでいるように見えた経験は誰にでもあると思います。例えば、白い壁や青空を見ている時などに顕著に現れますが、この症状を「飛蚊症」といいます。

 眼球の中には硝子体(しょうしたい)というゼリー状の物質が詰まっています。硝子体に何らかの原因で濁りが生じ、濁りの影が網膜に映るために起こるのが飛蚊症です。大抵の場合、加齢による生理現象なので、心配する必要はありません。しかし、視界の妨げになるほど影が増えたり、大きくなったりした時は「網膜裂孔」や「硝子体出血」の可能性もあり、「裂孔原性網膜剥離」につながるおそれもあるので、すぐに眼科を受診してください。

 

網膜裂孔(もうまくれっこう)とはどのような病気ですか


 網膜はカメラでいうとフィルム部分にあたる膜で、ここに映った画像が視神経を経由して脳へ伝わります。この網膜を内側から支えているのが硝子体です。

 硝子体が収縮して網膜から剥がれることを後部硝子体剥離といい、加齢による変化で誰にでも起こります。50歳前後で生じることが多いです。それ自体は生理的変化で問題はないのですが、ゼリー状の硝子体と網膜の癒着が強い部分や網膜が薄い部分があると、後部硝子体剥離が起こる時にその部分が引っ張られて網膜に亀裂ができたり穴があいたりすることがあります。これが網膜裂孔です。

 網膜裂孔の時点で発見できれば、レーザーによる治療で裂孔を囲み悪化を防ぐことができます。入院の必要もなく、外来治療によって短時間で行うことが可能です。しかし、網膜裂孔を放置しておくと、亀裂から液状になった硝子体液が網膜の後ろに入り込み、網膜が剥がれ網膜剥離に進行してしまうことがあります。

 

網膜剥離(もうまくはくり)とはどのような病気ですか


 網膜剥離が生じると、剥離部分に対応する視野が見えにくくなり、網膜の中央部分である黄斑まで剥がれると著しく視力が低下します。放置しておくと、最悪失明する可能性もあります。網膜剥離は、加齢や糖尿病網膜症などの一部の病気、事故などによる頭部や眼球への物理的衝撃が原因で引き起こされます。

 網膜剥離は痛みを伴わないまま進行し、初期には無症状の場合も多く、とても気付きにくい病気です。網膜は一度機能を失うと治療をしても再生しません。視力や視野の機能回復については、剥離の程度によりますから、とにかく早期に発見し、治療をスタートすることが大切です。網膜裂孔や網膜剥離になりやすい人として、強度近視の人、過去に眼球をぶつけるなどの外傷があった人、家族が同疾患を経験した人などが挙げられます。また、20代後半と60代前後に発症することが多いので、該当する年代の人は注意が必要です。

 

網膜剥離の治療について教えてください



 網膜剥離まで進行している場合は手術が必要になります。手術は眼球の外からシリコン製のバンドなどの当て物をして網膜の穴をふさぐ「強膜バックリング法」と、眼球内部に手術器具を挿入し、硝子体を切除し、剥がれた網膜を元の位置に固定する「硝子体手術」に大別できます。どちらを選ぶかは病状(網膜剥離のタイプ、裂孔の大きさや位置など)によります。最近は硝子体手術の適応が拡大しておりますが、若い人には強膜バックリング法を取ることが多いです。

 繰り返しになりますが、網膜剥離は治療が早ければ早いほど視機能への影響が少ないので、早期発見と速やかな治療が何よりも大切です。飛蚊症の他、眼の中に光が見える(光視症)、見ているものの一部が見えない(視野欠損)、見たいものがはっきり見えない(急激な視力低下)などの症状に気付いたら、すぐに眼科を受診してください。

2019/11/21

回復期リハビリテーション

 

憲 克彦 理事長



医療法人 喬成会 花川病院
憲 克彦 理事長
日本リハビリテーション医学会認定リハビリテーション専門医。
北海道大学病院リハビリテーション科客員准教授
花川病院 石狩市花川南7条5丁目2





回復期リハビリテーションについて解説してください

 病気で倒れたり事故に遭ったりした直後は「急性期」といいます。ここで手術など必要な処置をし、容体が落ち着いたら、ここから最長6カ月の「回復期」に入ります。ここで治療後に低下した能力を回復するため、さまざまな専門職が共同して集中的なリハビリを実施するのが、回復期リハビリテーションです。

 かつては「手術後は安静第一」と考えられていましたが、世界的に研究が進む中で「手術直後でも起き上がって動いた方が回復は早い」ということが分かりました。在宅復帰を進めるには、回復期リハビリを少しでも早く集中的に行うことが非常に重要です。
 

リハビリはどのように進めますか


 回復期リハビリは、主に脳卒中や頭部外傷、交通事故による複雑骨折の患者さん、外科手術などの治療の安静により生じた廃用症候群を有する患者さんなどが対象になります。

 座る、立つ、歩くといった基本動作の訓練から始め、食事や排泄、着替えなど日常生活に必要な動作が自分でできるような訓練へと進めていきます。自宅 ・ 社会復帰が大まかな目標ですが、家庭環境や仕事内容など条件は人それぞれですので、患者さんの病状やニーズ、ライフスタイルなどに応じて個別に目標が設定され、一人ひとりに合わせたリハビリ計画を立てます。

 回復期リハビリには、医師を中心に多職種が密接に連携するチーム医療が不可欠です。施設の体制により異なりますが、医師、看護師、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)、医療ソーシャルワーカーといった各職種がチームとなり、入院中のリハビリだけでなく、退院した後も快適な暮らしができるようサポートしていきます。


ロボットによるリハビリが注目されていますが


 近年、リハビリを支援するロボットが次々に登場して効率的なリハビリに貢献しています。例えば、トヨタ自動車と藤田医科大学(愛知県豊明市)とが共同開発した「下肢麻痺(まひ)リハビリ支援ロボット」。脳卒中で麻痺した脚にロボット脚を装着し、本体の可動式床の上を歩行練習するもので、転倒することなく、運動機能の回復を効率的に図れるのが特長です。患者さんの障害の程度に応じ、より長時間・多数歩の練習支援が可能になり、従来の歩行リハビリと比べ、回復速度の向上や歩行機能の改善が報告されています。

 人と人との触れ合いが重要視されるリハビリの現場で、すべての手技 ・ 施術をロボットに置き換えることはできませんが、人の足りない部分を補った上で、より安全性 ・ 効率性の高いリハビリを実現できるようなロボットの開発 ・ 登場が期待されます。


施設選びのポイントについて教えてください


 リハビリでは量と質がとても重要。 量の面では、セラピスト(PT、OT、ST)の数が多く、患者さん1人あたりに十分なリハビリを提供できているか。また、リハビリは切れ目なく、継続して行うことが大切なので、休日も休まずリハビリが提供されているかがポイントです。 質に関しては、チーム医療が徹底されていることが第一。 すべての職種が相互に他領域への理解を深めることで、全員が患者さんの全体像を描けるようになるからです。 リハビリの専門医が勤務していること、PT、OT、STがバランスよく配置されていることもポイントの一つです。 ホームページや資料 ・ パンフレットなどで、施設の特長や提供するリハビリの内容、理念や方針を比較してみるのもいいでしょう。気になる施設がある場合、一度リハビリの様子などを見学してみるのも一つの方法です。

 

2019/10/18

痔とはどのような病気ですか?

    札幌いしやまクリニック  石山 元太郎 理事長
    医療法人 藻友会
    札幌いしやま病院札幌いしやまクリニック
    石山 元太郎 理事長
    ●日本外科学会認定外科専門医。日本大腸肛門病学会認定大腸肛門病専門医。
    ●札幌いしやま病院 札幌市中央区南15条西10丁目4-1
    ●札幌いしやまクリニック 札幌市中央区南15条西11丁目2-1





    痔とはどのような病気ですか?

     痔とは、肛門やその周辺に起こる病気の総称です。日本人の3人に1人は痔であるといわれています。痔は、「痔核(いぼ痔)」「裂肛(切れ痔)」「痔ろう」の3つに大きく分かれ、外来患者の約8割を占めます。このうち、最も多いのが痔核です。

     

    痔核の症状と治療法について教えてください

     イボができる場所により、肛門の皮膚部分にできる「外痔核」と肛門の内側の粘膜にできる「内痔核」に分類されますが、最も頻度が高いのは内痔核です。

     肛門は、便やガスが無意識に漏れないように括約筋という筋肉で閉じられていますが、これだけでは不十分なため、肛門の出口から数センチのところに「クッション」と呼ばれる、水道の蛇口のゴム栓のような役割を担う部位があります。排便時のいきみなどでクッションが腫れ、本来あるべき位置からずれ落ちた状態が内痔核です。さらに、このクッションが肛門の外まで出てくる状態を「脱肛」といいます。

     内痔核の多くは、排便の回数や状態を整えたり、塗り薬や座薬で症状を抑えたりする保存治療で改善しますが、出血や脱肛の程度によっては外科的治療が必要になります。

     

    内痔核に対する外科的治療について教えてください

     かつては、内痔核ごと肛門粘膜部をすべて切除し、残った直腸側と皮膚を縫う手術が主流でしたが、術後の出血や痛み、肛門狭窄などのリスクがあり、術後に肛門の機能が損なわれるケースも少なくありませんでした。現在、専門病院の多くでは肛門機能の温存を重視した治療が行われています。

     現在の外科的療法では、近くに流入している動脈を結紮(けっさつ・縛ること)し、痔核を切除する結紮切除術が一般的となっていますが、より肛門の機能を重視した手術に「ACL法」があります。これは、ずれ落ちたクッションを本来あるべき位置に戻し、括約筋に固定する手術法です。クッションは元来必要なものですから、切り取るのではなく、「元の状態に戻す」というのがACL法の考え方です。術後の痛みを軽減でき、大量出血の可能性も少なく、入院期間の短縮が見込めます。

     「MuRAL法」も肛門機能を損なわない新しい手術として注目されています。これは、ずれ落ちたクッションを本来あるべき位置に戻した上で、痔核の原因となっている粘膜や血管を糸で縛って肛門の奥に引き込む術式です。ただ、まだ国内での症例数が少ないため、今後の治療成績の蓄積が期待されます。

     薬剤を内痔核に直接注射して痔核を縮小させる「ALTA(ジオン)注射療法」という治療もあります。メスを入れないため治療後の痛みが少なく、入院期間も短くて済みますが、すべての痔核に効果があるわけではなく、この治療に適しているかどうかを厳密に選択しなければ再発しやすいという特徴もあります。

     

    どんな治療を選ぶといいですか


     肛門が狭くなるなどのリスクをいかにゼロに近づけて、術後のQOL(生活の質)を保つか。大前提として、可能な限り肛門機能を温存できる治療法を選ぶことが大切です。

     治療の選択は、患者さんの年齢や肛門の状態、希望・要望、ライフスタイルなどを考慮して総合的に決定します。患者さん一人ひとりの病状と訴えに対し、最も適した治療を選ぶことが何よりも重要になります。

     病院によってできる治療法は違います。どんな病気に対してもそうですが、治療の選択肢が一つでも多いに越したことはありません。複数の治療法を手掛け、治療・術式の症例数のバランスが取れている病院を選ぶことも大切です。

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